第69話 エリートの美術教育

「クワヤマダくん、世界のグローバル企業の幹部たちの中で、アートスクールに通うことがステイタスになっているようだよ。」


「企業戦士としての疲れを癒すため?」


「それもあるかもしれないけど、複雑化した現代社会で、事業を展開していくためには、がないと厳しいらしんだ。分析や論理などで積み上げ、理性で運営していく、サイエンス重視のビジネスが行き詰っている。」


「アート思考?」


「アート思考とは、全体を直観で捉える、第6感のような、構想力や創造力のことを言うらしい。簡単に言うと、人間の本能や感性に訴えかけるものについての在りようを考察する能力ってところかな。」


「ダイラさん!難しい話は眠くなりまっす!もっと分かりやすく説明してください。」


「そうだなぁ。え~と、お金配りで有名な、最近、宇宙に行った人・・。」


「前澤さん?」


「そうそう、あの人って、現代アートのコレクターなんだよ。」


「しょっちゅう、お金配っている。所蔵していたバスキアの絵は120億で落札されたらしいです。」


「富豪にとっては、120億なんて、大した額じゃないのかもね。住んでる世界が違うんだよ。そういう話じゃなくて、彼は、宇宙に行ったときに、一枚の絵を持っていき、宇宙船内に飾ったんだ。」


「知ってる!井田幸昌さんの絵ですよね。」


「井田さんの絵のコンセプトは、今の大切さを時間軸として表現に取り入れている。一期一会は、元々、茶道の心得を表した語で、どの茶会でも一生に一度のものと心得て、主客ともに誠意を尽くすべきということを言っているんだ。」


「せんぱ~い、前澤さんが、井田さんの作品を宇宙に持っていくことにどんな意味があるのですか?」


「ここからがアート思考。理詰めで考えたら、使えない絵なんかいらないだろ。一生に一度あるかないかの宇宙船で働く彼らとの出会いへの。井田さんのコンセプトを利用したんだ。分かる人には分かったんじゃないかな。船員の人たちは、金持ちの変な日本人がを持ってきたわ。くらいかもしれないけど。」


「前澤さんは、その後、地球にいる人たちに、宇宙からお金配りした。僕もアプリを登録したけど、500円しか当たらなかった。そのアプリは寄付アプリと繋がっていたから、すぐに寄付しましたよ。」


「そこが、前澤さんのアート思考。」


「宇宙空間で必要なものは、心(コンセプト)なんだよ。お金なんか役に立たないからね。でも、地球人はお金が必要。お金がある人は、無い人にお金配りというアートで心を尽くせという狙いなんだよ。」


「僕は前澤さんのアート行為の一端を担っていたんですね。」


「でも、お金で満たされても心は買えない。前澤さんの宇宙旅行はそんな皮肉を込めたアート活動だったんじゃないかな。」


「前澤さん、宇宙に行く前に、彼女と別れちゃっていましたもんね。この話もう少し続きそうですね・・。」


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