第159話 シンギュラリティ②
「三世さん、スボイ教授の芸術日記はAIが歴史を捏造するために書き替えたものだったらしいです。」
「だよな。話が滅茶苦茶だったもの。結局、初代学長とスボイは天竺には辿り着けたの?」
「それが、日本全国にある美大に道場破りを仕掛けて門前払いだったそうです。」
「本家本元の西遊記では、天竺でお釈迦様から膨大なお経をもらってめでたしめでたしだったよね。」
「二人は在庫の山となったぴろぴろの彫刻という本を抱えて帰ってきたらしいです。」
「そこはAIは捏造していなかったんだね。」
「芸術日記は事実も含まれているからややこしいのです。」
「2045年に起きなかったシンギュラリティ後の世界は、AIが繁栄したはいいけど、結局人間に支配されて今にいたる訳だよね。」
「アートの世界でもAIは幅を利かせました。初代学長の後にスボイが赤羽美術大学の学長になったのですが、AIを取り入れた美術教育に邁進していきました。」
「学生たちはAIにテーマを入れるだけです。そしてAIが生み出したアートを見ながら再創作するのです。」
「将棋の世界でも同じようなことをやっていたよね。AIの戦法から人間が学び腕を磨くみたいな。」
「将棋の場合はAIには絶対に敵わないから、AIと人間は対戦しないことになっていきましたね。AIから学習した人間同士が対局する分野が確立しました。」
「アートも同じさ。AIのアートは突き抜け過ぎていてよく分からないんだ。原始人にデュシャンの便器見せたって理解不能のように。初めは皆飛びつくんだけど、肌に合わないから離れていくんだ。それが人間ってものだよ。」
「そうなんですよね。スボイ学長のそこが賢いところだった。AIに全て任せるのは愚の骨頂であり、人間にとっては毒にも薬にもならぬことが分かっていた。」
「AIのアートは人間のフィルターを通すことで世に流通する。人間には自分が経験したことしか理解できない弱さがある。AIはそこの壁をぶち壊してくる。その壊れた破片から人間は経験則に照らし合わせて再構成する。」
「ある意味、共存関係が成り立っていた。昭和40年生まれの文化人たちが異質なものを大量に生み出した平成ルネサンスと同じような時代を作りだせたのも、スボイ学長の功績かもしれない。赤羽美術大学から世界のアート席巻したと書かれていた。」
「まぁ、よく調べないとそれも捏造かもしれないよ。」
「あと、2020年に起こったコロナ戦争が4年で終わるとある識者は言っていたけどかなり長引いたとも書かれていた。」
「コロナ戦争中に教育界で導入されたGIGAスクール構想から、人間の思考回路が変形していったらしいね。」
「その話はまた後日にしよう。」
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