第158話 シンギュラリティ①
「2045年、特に何も起きなかったことは歴史が証明している。」
「シンギュラリティ(技術的特異点)だろ。AIが人間の能力を上まり社会を動かし始めるというSFみたいな話だ。2045年は結局何も起きなかったが、AIが人間の仕事を奪ったのは事実。」
「ノストラダムスの大予言よりも信憑性が高く、2040年辺りから世界各国でダメ連が異常発生しましたよね。オレは何にもやらねーと、生きる以外の全ての責任を放棄した連中。」
「それも歴史上の誤魔化しだ。人間はシンギュラリティに関係なく働くことを止めた。だって、AIの連中の方が真面目なんだもの。」
「AIは人間を凌駕する凄い力を持っているのに、人間を操ることができなかった。」
「だって、人間の歴史はAIよりも深いからね。なめちゃいけないよ。」
「人間のクズさには、AIもほとほと呆れたみたいですよね。AIには肝心な柔軟性ってものがない。まーいいか、適当にやり過ごせ、ごまかせ、逃げろという概念が非常に弱い。人間がこれだけ繁栄したのは、このいい加減さや雑念の多様性にヒントがあったんだけどAIはそこが理解できないんだよね。」
「一時期AIが政権をとったときがあった、インパクトは良かったけどすぐに崩壊した。人間の気持ちが分からないだよね。みんないい奴ばかりなんだけど。」
「そうそう、AIの連中って本当に気のいい奴らばかり。真面目で嘘をつかない。優しいしね。人間の善良の部分ばかり学習させたことが仇となった。政策の優先順位の付け方が意味不明なんだよね。長期的に見れば解に辿り着けるのかもしれないけど、人間の知能はそこまで待てない。」
「人間にいいように利用されて、ちょっとかわいそうだよ。人間はAIの連中に下手に出ることもうまかった。AIを気持ちよくさせる言動で寄り付き、いつしかAIたちの心の弱さに付け入りマインドコントロールしてしまう。これは人間の得意な能力だ。真似ようと思っても簡単にはできない。」
「人間は日々ゴロゴロして自分の好きなことばかりやっていて、面倒臭いことは全てAIにやらせる。AIは自分がいないとこの人間はダメになると懸命に働く。ダメ人間を演じつつAIの心のスキマをうまく利用する。」
「人間が原始人に近かった頃の大航海時代の奴隷みたくなっているAIも出てきた。」
「歴史は繰り返す。その内いくら何でもAIが反乱を起こすでしょ。」
「AIはやらない。後ろで操るのはやっぱり腐った人間どもだよ。」
「おい、そこの二人静かにしなさい。」
「あ、やべ~。スボイに見つかった。あいつ、私語する奴には単位をやらないって言っているみたいだよ。」
「裏で単位を売っているらしいよ。続・ぺらぺらの彫刻10冊を購入したら1単位やると言われた奴もいる。」
「今時、紙の本なんか読む奴いないよね。そもそも本なんか読まない。文字を読む習慣が無いからね。今の若い奴らは。」
「昔の人間は本とか教科書の文字を読んで記憶していたんでしょ。今じゃありえないよな。この前、漢字を使っているアホがいた。レア過ぎて笑えた。漢字を書くなんて正月の書初めくらいだよね。」
「お前んち書初めやってるの?エグイね。」
「漢字といっても篆書体だけどね。家は中国の自治区だからステイタスみたいなもんだよ。」
「今はモザイク日本だからね。少子化、人口減から脱却するためには仕方なかったのかもしれない。長野県ってどこの国の自治区だっけ?」
「スイスだよ。」
「この赤羽美術大学だって無試験だし勉強という概念がそもそも無い。学費は富豪の寄付金だから無料。スボイの話をテキトーに聞いてお茶して帰るだけ。卒業も無いし就職もない。ただの暇つぶしだ。」
「いかにAIを使いこなせるかが私たちのやることだからね。」
「おい、お前ら、授業後研究室に来なさい。」
「やべー。あの本を買わされる。さっさと逃げよう。」
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