第444話 うちら全員迷路の中だった!

クワヤマダくんの部屋は、無数の迷路が描かれた紙で溢れていた。床一面に広がる線と線の交差はまるで彼自身の心の迷いをそのまま写し取ったようだった。


クワヤマダくんは、布団の中に沈み込んでいた。

「ダイラ先輩、栗さん……気付いたんだよ。僕たちは迷路の中で生活しているだけなんだって。どれだけ歩いても、どれだけ考えても、そこにあるのはただ新しい分岐点だけ。ゴールなんか、どこにもない。」


ダイラは手に取った迷路のスケッチを眺め、眉をひそめた。

「それで、外を見上げたら何が見えた?」


クワヤマダくんは暗い声で答えた。

「無限の迷路だよ。宇宙もまた、迷路そのものだったんだ。星々があって、銀河が広がって……けどそれも結局、出口のない迷路なんだ。何を目指して僕たちは生きているんだろう?」


栗瑛人は窓際に立ち、外を見上げる。夜空には満天の星が広がり、その広がりにさえ何か答えがあるようには思えなかった。

「確かに、宇宙も迷路みたいだな。広がるばかりで、どこまで行っても終わりがない。けど、迷路の中で生活してるのは僕らだけじゃないさ。ほら、隣の部屋の人だって迷路にいるし、地球全体がその中で動いてる。全員、出口がないと気付かずに走り続けてるだけかもしれない。」


「それが怖いんだよ。」

クワヤマダくんはうつむいたまま、続けた。

「誰も気付いていない。みんな何かしらのゴールがあるって信じ込んでる。けど、本当は違う。人生そのものが巨大な迷路で、空を見ても地面を見ても、行き場なんてどこにもないんだ。何かを達成して喜んでいる人たちだって迷路の中で迷っていることを忘れているだけ。」


ダイラは深く息をつき、壁に寄りかかった。

「でもさ、迷路だって一歩ずつ進むしかないだろう。たとえ出口がなくても、何かを見つけるために進むんだよ。それがないと、人間は生きられない。」


「進んでも何も変わらないんだよ!」

クワヤマダくんが叫んだ。

「ただ迷って、分岐点に来て、また迷って……それが人生だってわかってしまったら、もう進む気力なんて湧かないんだ。」


栗瑛人は振り返り、クワヤマダくんを見つめた。

「それでも、立ち止まるのはもっと怖いことじゃないか?たとえ迷路の中だとしても、進んでいるうちは何かを探し続けられる。でも、立ち止まったらどうなる?」


「何も見つけられない。」

クワヤマダくんの声はかすれた。


ダイラはそっと窓を開けた。冷たい夜風が部屋に吹き込み、散らばった迷路のスケッチがふわりと舞った。

「お前が迷路だと思ってるこの世界も、見方を変えれば地図になるかもしれない。出口を探すんじゃなくて、ただ風景を見てみろよ。進む理由なんて後から見つければいい。」


クワヤマダくんはしばらく黙っていたが、やがて重い身体を持ち上げ、窓の外を見た。

「それでも、この空の向こうに広がっているのがまた迷路だって思うと、なんかやりきれないな……。」


栗瑛人が笑いながら肩をすくめた。

「そう思うなら、迷路を作った誰かに文句を言ってやろうぜ。どこにいるかもわからないけどさ。」


その夜、三人は星空を眺めながら、出口のない迷路について語り合った。人生が迷路であることを受け入れながら、それでもどこかで次の一歩を踏み出す自分たちを笑い飛ばしていた。

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