第24話 シン・ゴジラ 第一回五美大展のころ

ダイラは地図を頼りに、新小平駅での興奮覚めぬまま、美大の正門に辿り着いた。


大きな四角い枠のような門は、味気なく、門を見上げると胸の鼓動が落ち着くのが自分でも分かった。


しかし、新小平駅で会ったメーテルもこの門をくぐっていることを想像すると、再びドキドキが始まった。


勇気を出して、敷地内に入ると、いきなり守衛さんから声をかけられた。


「君、どこの学生さん?」


「え?あの~、見学というか、知り合いに会いに来ました。」


ダイラは咄嗟に嘘をついた。


丁度いいタイミングで、守衛室に内線電話がかかった。


ダイラはと、守衛室前から消えた。


レンガ作りの歩幅が異常に長い階段を大股で駆け上がると、喫煙所らしき場所に強面こわおもてな人たちがタバコを吸ってたむろっていた。


「ヤスダさん、厳しいよなー。お前の作品はごびだいには出せないぞ。だって。」


「オレは、ツチヤさんからは、褒められたよ。フォルムが美しいって」


「それは、特に言うことが無いときに、よく言うやつだ。残念ながら、お前の作品はツチヤさんの視界には入ってないぞ!ハハハ。」


ダイラは、そば耳を立てながら、って何のことだろうと想像を膨らませていた。


美大の学生は、自分の作品をと呼ぶのだろうか。いや違う、がついているってことは、たかの台駅?


ダイラは、美大には最寄りの駅が二つあることを調べていた。鷹の台駅は、美大から少し遠く、不便な場所にあると知っていた。


「駅で展示するのか?鷹のごみ台展示会か?」


この連想ゲームはその後、ダイラが美大に入学してから有志で始めた、鷹の台駅の裏手にある小平公園での野外展へと繋がる。


その後、小平野外展は回数をこなす内に、地域住民からは、若者が不法投棄しているのではと問い合わせがくるくらい、作品とゴミの堺がなくなっていた。


ダイラが聞き間違えていたごみだいとは、当時(1978年)東京の五美術大学で、学生の制作意欲向上の一環として、第1回五美大ごびだい展が東京都国立美術館で行われた。


美大の図書館前はかなり広々としており、派手な格好をした者、ツナギでうろつく者様々な人間が闊歩していた。


その中でも異彩を放っていた人物がいた。


サングラスをして女装をした、フィギュアの怪獣をビニール袋にたくさん詰め込んだ人がタバコを吹かしながら、ダイラの前を横切った。


その時、ビニール袋から黒い怪獣が落ちた。


アニメ化されたばかりの ジャンボマシンダーだった。


ダイラは脊髄反射的に、ゴジラを拾い、女装した人に手渡した。


「サンキュー坊や、君、ガロって漫画知ってる?」


「しっ知りません!」


「面白いから、お礼にあげる。」


「手渡されたのは、スケッチブックにビニール本をコラージュしたものだった。」


「これが、ガロなんですか?エッエロですよね。」


「おもしろい坊やだね。ガロの漫画もコラージュしているから。」


ペラペラめくると、漫画が切り刻まれて汚く貼られていた。


「おれ、絵は下手だけど、漫画も描いているんだぜ。」


下手くそなカエルの絵を見せてくれた。


美大には、本物のクリエーターやデザイナーがいるというダイラの思い込みが崩れた。


「酔いつぶれたメーテルに、女装した怪しい人、この大学は一体どうなっているのだ?」


中学生ダイラは、未知なる世界に足を踏み入れたことで、もう後には引き返せないことを悟った。



















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る