超人ダイラ

第171話 ひよっこ構造主義

「せんぱ~い。スカイツリー展望デッキから見る景色は最高すっね。」


「むさし(634m)から俯瞰すると人間の存在の小ささが分かる。アリのように動いている人やおもちゃの車みたいに見える物の中にも、自分と同じ人間がいると考えると不思議な気持ちになる。」


「そうですよね。普段自分が悩んでいることが小さく感じられる。」


「道端に蠢くアリの集団を観ながら、その中の一匹のアリの悩みについて、考え合うようなナンセンスなことはしない。」


「人間だって同じですよね。ここにいる僕の悩みを請け負ってくれる人なんかいる訳ないです。」


「そんなこと言わないでよ。隣にいるじゃないか。」


「せんぱ~い!」


「ところで、クワヤマダくんの悩みって何?」


「もういいです・・。」


「こうやって街を俯瞰すると、考えてしまうことがある。あのビル、あの学校、あの工場、あれらの建物の中には人がいる。でもあのビルからあの学校に急に移り活動を始めることなんか余程のことが無い限りあり得ない。」


「あの工場に勤めたら、人生のほとんどをその空間で過ごします。いつも同じ仲間と同じような会話をして、苦手な上司がいたら文句を言いながらも我慢して過ごす。」


「現代は転職する人が増えてはいるけど、人生を過ごす場所はある程度は固定化されている。その固定化された場所にいることで、培われていく思考回路があるはず。その思考回路の癖や習慣みたいなものをアートにしたら面白いんじゃないかなぁ。」


「せんぱ~い、それってレヴィの構造主義ですね。現代アートって構造主義が生み出した側面が強い気がします。何でそんな思考回路っていうアートが時々ありますよね。あれって、僕らが経験したことがない構造の中で育った人間しか作れない。」


「正しく、あの工場で生まれ育った人間の思考回路!みたいな。」


「田中達也さんという身近なモノを建物に見立て、ミニチュアの世界を写真で表現している作家がいます。」


「知ってる!NHK連続テレビ小説ひよっこのタイトルバックを手掛けた人でしょ。」


「あの世界観は、構造的な現代を俯瞰して、独特な構造物を用いて世界を表現している人だと思います。」


「確かに、ミニチュアの世界は昔からあったけど、身近なモノに焦点を当てて、構造化した人と言えば、針を振り切っている存在だ。」


「巷では人気のある作家です。特に女性や子どもたちが群がっています。スカイツリーから眺めるような感覚と、焦点化したら不思議な構造の中で生きる自分たちを再認識するつくりになっていると思います。日常を見る目が豊かになるみたいですよ。」


「なるほど。人間とは自分の居場所を俯瞰することで、今を糧にできる生き物なのね。」







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