第170話 自由の起源

「ノーベル賞2022でウクライナとロシアの人権団体が受賞したと話題になっていましたね。」


「賛否が渦巻く受賞だったみたいだけど、両国の人権団体を評するということは、現代社会の本質を突き付けられた。」


「もし戦争がなければ、その団体は受賞したと思う?」


「戦争というから人権というがクローズアップされた感は大いにあると思う。僕は喜べる受賞ではないと思うよ。人権団体があること自体、人権を侵す本質が蔓延っている世界なんだから。」


「釘があるから金槌が作られるみたいな話ですか。」


「そうそう、釘という本質があるから金槌が存在するという、サルトルの実在主義だよ。」


「人間に例えると、自分の本質は決まっているわけではなくて、具体的な生き方が自分の本質をつくるみたいな?」


「オレは自分の意思で生まれてきたわけじゃない!と反抗する子どもは真っ当なことを言っている。そもそも人間とはそういう存在。気が付いたら存在(実在)していて、生きる意味や存在理由(本質)は自分でつくるしかないのである。」


「金槌の本質は打ち込むことができるという存在理由ですね。」


「酒を飲む本質は『嘔吐』することと説いたサルトルはノーベル賞文学賞を辞退した最初の人だったんだ。」


「ノーベル賞という金槌のような存在に打ち込まれる本質になりたくなかったということですか?」


「ノーベル賞のためのサルトルでは本当の自由は得られない。自分の本質は自分で決めたいと考えているサルトルらしい哲学的な行動なんだよ。」


「私は美大に通っているとき、自分では揃えられない凄い道具や設備があるから、作品をたくさん作ろうと考えていました。美大の存在理由の本質になっていたと思います。」


「道具や設備がなければ作品は作らない。今のあなたを見ていると美大の存続理由にまんまとハマっていたことになるね。」


「でも、自分の本質をつくるために美大で作品をつくっていたと考えれば、美大は自分にとって本質をつくるための存在理由となるかも。」


「展示スペースがあるから作品をつくり展示するのか、自分を作るために展示スペースを活用するのか、その人の考え方が浮き彫りになるかもしれない。」


「生き方のという話ですね。」


「アーティストという生き方があるから作品を作っている人と、作品を作っていたらアーティストというカテゴリーに入れられた人といそうです。」


「作品を作っていてもアーティストではないと言う人がいたら、サルトルみたいな本当の自由人かもしれませんね。」


「でも、自由というカテゴリーに存在する訳だから、それも一つの金槌に成りうるんじゃないかなぁ。」


「自由の起源(本質)とは何か?この命題はBIWAKOビエンナーレ2022の作品群から考えてみようよ。」





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