アートサバイバーダイラ

第380話 アートサバイバー&特殊部隊作家

1980年代末、バブル経済の絶頂期。東京の夜はネオンに照らされ、人々は高揚感に酔いしれていた。「永遠にこの時代が続く」と信じ、浮かれた欲望が街を支配する。だがその繁栄の裏には、不安の影が潜んでいた。


そんな時代に、美大近くの公園で野外彫刻展の準備を進める平さんは、あたかもバブルという熱狂から距離を置いているようだった。彼の作品には、戦争の爪痕や宇宙の広がりといった、人間存在の儚さを表現する深いメッセージが込められていた。華やかな世界に背を向け、静かな再生を描こうとする彼の姿は、未来から来たダイラとクワヤマダくんの目に、どこか現代の人々と通じる原始的な葛藤のようにも映った。


二人はタイムワークの力を使い、この時代を訪れた。そして、公園の彫刻展の会場で平さんの作品に目を奪われる。そこには、原爆ドームとプラネタリウムをモチーフにした二つのオブジェがあった。戦争の破壊と宇宙の無限――この対照的なテーマを融合させた作品は、光の狂乱に包まれたバブル時代の中で、ひときわ静かな存在感を放っていた。


しかし、ダイラは作品に違和感を覚える。


ダイラ:「……変わってる。これ、確かに“ドームのないプラネタリウム”だったはずなんだ。」


クワヤマダくん:「ん? 何が?」


ダイラ:「見てみろ。今は、うっすら小さなドームができてるじゃないか。」


クワヤマダくん:「……おい、もしかして俺たち、やっちまったんじゃない?」


二人の顔が青ざめる。これは単なる偶然ではない。タイムワークの干渉で、過去そのものが変形し始めているのだ。


ダイラ:「このままいくと、次はあの不朽の名作“コンタクトドーム”がコンタクトレンズに変わるかもしれない……。そして、人々が使っているコンタクトレンズがコンタクトドームになり、いつでもどこでも星空鑑賞!?」


クワヤマダくん:「やばいよ、やばいよ!(出川風)」


二人が焦り、未来への影響を心配していると、平さんが彼らのそばにやってきた。静かに佇みながら、まるで二人の心の中を見透かすように語り始める。


平さん:「おまえらタイムトラベラーだな。分かってるよ。過去を変えることは、未来を変えること。でも何も変えずにいることも、一種の選択だ。大切なのは、今の自分がどう在るかじゃないかな?」


クワヤマダくん:「ちょっと言っていることがよく分からないんですが...。」


平さんの言葉は、タイムワークという能力を持つ二人に、重くのしかかる。


ダイラ:「俺たちは、過去を直すためにここに来たのか? それとも、このまま受け入れるべきなのか……?」


平さんは微笑んだ。


平さん:「どっちも正しいよ。アートだってそうだろう?未完成のままの作品も、完成品も、それぞれが意味を持つんだ。」


クワヤマダくん:「それも、ちょっと意味が分からんです。」


ダイラは平さんの言葉に少し心が軽くなった気がした。


ダイラ:「未来なんてわからないからこそ面白いのかもな。たとえ俺たちがドームの形状を変えたとしても、もしかしたらそれが新しい未来への必然的な変化かもしれない。」


クワヤマダくん:「そうだな。ドームがレンズになったら、それはそれで斬新だしな。でも鉄板からレンズは材料費のケタが変わってくるけど、いいのかなぁ。」


二人は顔を見合わせて笑った。どんな未来が待ち受けていようとも、今を楽しむことが重要だという答えにたどり着いたからだ。(いつもの結論)


ネオンが消えかけた東京の街を歩きながら、二人は次なるタイムワークの旅に思いを巡らせる。未来への不安も、過去の変化も、今となってはもう恐れることはない。


クワヤマダくん:「次はどこに行く? フォッサマグナ? それとも未来の学校で宇宙人が給食食ってる世界か?」


ダイラ:「まぁどこだっていいさ。俺たちは“アートサバイバー”なんだからな。」


平さんの作品と、バブルの残り香の中で得た経験が、二人に新しい道を示してくれる。たとえ過去が変形しようとも、アートが持つ力は時空を越えて人間の心を結びつける。そして、変わる未来を恐れずに進む勇気が、彼らを次なる冒険へと導いていくのだった。


クワヤマダくん:「でもやっぱり、過去を変えたら、やばい気がするんだよなぁ。平さんがその後、特殊照明作家でなく、特殊部隊作家になったら、それはそれで大きな進路変更になるけど、まぁいいか。」


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