第33話 TAROの激しい影~ダイラの大発明~

1970年代、岡本太郎(以降TARO)の太陽の塔を知らない日本人はいなかった。


日本一名の知れた現代美術家であり、TAROを目指す若きアーティストが大量発生した。


ダイラは家族で街に出かけた日の夜、TARO人物が道端でテレビ撮影をしていたところを目撃した。


そこで見たTAROの姿は、CMやテレビ番組で見た過激な印象とは違っていた。


「芸術は爆発だ!」と無防備に言い放つ乱暴さはなく、静かに淡々と、照明さんと何度も何度もライトの当て方を慎重に検討していた。


「照明さん、その角度だと、顔がつぶれて見えちゃう、もっと迫力が出るように、角度をつけてください。ここがいいかも、あーちがうなぁ~・・」


照明さんはライトを持ったまま、TAROの周りをグルグル回っていた。


ダイラは、TAROの様子に、感動を覚えていた。


ダイラは幼少期から、兄と8ミリビデオで映画の撮影ごっこをしていた。


高校では演劇部で、脚本を書きながら、舞台美術や照明を担当していた。


あの日のTAROらしき人物の行動がずっと心に引っかかり、ダイラも照明に関しては、自分なりに研究を深めていた。


ムサビの彫刻科では、作品を講評してもらうときに、ダイラだけ、自作の照明を持参していた。


作品はという強い思いが、いつしか、当たり前になり、ダイラの代名詞にもなっていた。


ライトアップにこだわり続けていたのは、後にも先にもダイラだけだった。


作品のから光を放つ作風は、学生時代には確立していた。


オレの作品は、に照らされてナンボ。


しかし、無類のでもあるダイラは、自分の作風が固まっていることに気付いていた。


周囲の高評価とは裏腹に、モチベーションがぐっと落ちていた。


友だちの展示を観に行ったとき(第9話)、屋上で見た室外機とビルの周辺を走る山手線から、アイデアが生まれ、直ぐにアトリエで制作を始めた。


その時、ダイラには、もう一つのが降りてきていた。


山手線の電車が照らすライトの動きに合わせて、ビルのことだ。


TAROらしき人の周りを照明さんが必死で動き回る記憶とビタッと重なった。


1993年 ダイラは大きな転換期を迎えた。


動く照明というをしたダイラは、「TOKYO UNIT LIFE」を完成させた。


無数に穴の開いた数十台の室外機の周りを光源を乗せた電車がグルグル回る。


光源に映し出された動く影たちは、レストランで夕食を摂っている人々の前に設置されたスクリーンに描かれた。


皆、様々な形態に躍動する影に驚き、若きアーティストのチャレンジに途轍もない才能を感じた。


以降、動く光源の発明は、ダイラ作品の魅力を加速させ、光の魔力に長くことになる。




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