スタジオダイラ

第121話 戦慄ヤヨイの部屋④

「ヤヨイさん、帰っていいですか・・。」


「ダイラさん、あなたに帰る場所はあるのかしら。私の脳内にいるのに。」


「もう怖い話は止めてもらえますか。」


「あなたは、東京から移り住んださんがなぜ微塵切りにされたか、本当の理由を知りたくないの?」


「続きがあるの?もうこれで最後にしてくださいね。一人でお風呂に入れなくなりますから。」


「草かぺさんは、考古学者に成り済ましていたけど、戦後、ジャーナリストとして、戦争犯罪について独自のルートで調査した極秘情報を同人誌に売っていたの。」


「かなり危険な仕事ですね。」


「あなた、石井部隊、第731部隊はご存知?」


「あぁ、歴史の授業で少し教わりました。満州国で人体実験を行っていた部隊ですよね。」


「壮絶な人体実験を行っていた。戦況が悪化したころ敗戦を予期し全ての情報は焼かれたみたい。詳しい実際の内容はGHQが握っていた。良心の呵責に苦しんだ少年兵の生き残りが、草かぺさんの基に事細かく情報を提供したのよ。」


「草かぺさんのジャーナリスト魂に火がついたのですね。」


「毒ガス室に大陸の人々や捕虜を入れ、亡くなる様子を記録したり、細菌・生物兵器を作るために細菌を人体に入れたり、中国人が住む街中にペスト菌を纏わせたネズミを放ち、ペストを流行らせたりと、おぞましい実験が繰り広げられたの。」


「人間はどこまでも残酷で残虐な生き物ですね。戦争中とは言え、ジュネーブ議定書では、化学・生物兵器の使用は禁止されていましたよね。」


「日本は追い込まれていたのよ。今でもどこかの国はルールを破って、罪のない人々を攻撃している。悲しい現実よ。」


「でも、草かぺさんの行動は、当時そんなに珍しいことではないのでは?」


「証言者の話を聞くうちに、ある人物の名前が出てきたの。それは、草かぺさんの妻の父親、戦後、国会議員を務めていた、人権運動家、特に女性の人権に力を入れていた人物だった。」


「731部隊でやっていたことが暴露されそうになった?」


「マルタと隠語で呼ばれていた人体実験で亡くなった人々を処理する仕事をしていたの。崖の上に、細菌爆発でケガを負った人を棒に括り付けて並べ、苦しむ姿を見ながら、突き落とすの。特に実験していたのは女性が多かった。その落ちた遺体を回収する。」


「信じられない・・。もう、一生一人でお風呂に入れません。」


「地元の人たちはその光景を見て、日本人の残虐性におののいた。崖の上に並ぶ、棒に括り付けられた人間を、と呼んだ。」


「崖の下には、手足がちぎれ、細菌に侵され、鱗のような皮膚をした半魚人のような遺体が転がっていた。中国人は日本人に逆らうと半魚人(パンニュウジェン)にされると逃げ回ったそうよ。日本兵は、中国人の発音がうまく聞き取れず、あいつら崖から落ちたらと呼んでるぜ!と認識したよう。」


「崖の上のポニョですね・・。草かぺさんはそれを告発しようとしていたのですか?自分のお父さんですよね。よくそんなことできましたね。」


「それが、草かぺさんなんだよ。その告発文章の内容を読んだ妻は、父親に連絡したの。案の定父親は逆鱗し、そのスジの人たちが、草かぺさんを微塵切りにして川に流したという結末なのよ。」


「何で、ヤヨイさんはそんなにお詳しいのですか?」


「私を怪しみ何度も来ていた若い警察官から聞いたのよ。この話は極秘だから、誰にも言ってはいけませんからね。」










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