第179話 さらば巨大洗脳装置

「私、最近テレビを見なくなったわ。」


「そうだなぁ、僕もあまり見ないかな。」


「自分の好きな動画をスマホで選んで観ている内に、テレビを観ている意味が分からなくなってきたの。子どもの頃から当たり前のように、居間にいるときはテレビをつけてダラダラと観ていたけど、実は好きでもない映像を見せつけられていたことに気が付いた。」


「確かに、朝から同じような天気予報を何回もやっていたり、食事中に事故や事件について見せられると、心が動揺するよね。自分は何も考えずに食事をしているのに、世界では苦しんでいる人がいることを知ると、複雑な気持ちになった。」


「あと、ニュースキャスターやテレビタレントや役者たちのあまりにも美形過ぎることも、日常との落差があり気分が落ち込む。」


「選び抜かれた美形の人たちが出ている世界は、憧れもあるけど、心がざわつく感じはあるよね。」


「自分はあんなに美しくないし、人前で面白いこと言えないし、気も利かない。そんな自分を再認識するテレビを観ていたことで、人生の大切な何かを失っていたことに気付いたの。」


「テレビは洗脳装置だと言う専門家もいるくらいだから。」


「美しくあれ、きれいであれ、正しくあれを無意識レベルで強制されている。」


「テレビに出てくる人間がどれだけ人道的な人権や道徳に配慮したことを言っていたとしても、そこに並んでいる煌びやかな人間を見ていると綺麗ごとを言っているとしか思えない。」


「でも、そこまでやらないと視聴率がとれない現実もあるのだと思うよ。結局は視聴者のえり好みの結果がテレビの中の世界観を生み出しているとも言える。」


「人間の欲の象徴がテレビってことね。」


「見ないという選択があるから。若者の自宅にはテレビがないと聞くよ。スマホで全てが事足りるし、若者は合理的な判断をしている。テレビ局は若者のテレビ離れを防ぐために、人気ユーチューバーを使っているようだけど、あれは厳しいね。」


「ユーチューバーは基本的に素人だから、テレビでは映えない。若者もそのユーチューバーが出るシーンだけを見て終わりだ。プロデューサーは芸能事務所の手塩にかけたタレントを差し置いて、ユーチューバーを輝かせることはしないから、ちょい役で使うことが関の山。」


「テレビタレントはやっぱり選び抜かれた人材だし、多くの人たちの食いぶちがかかっている存在だから本気度が違うんだよ。」


「テレビなんかこの世から無くなればいいじゃんと思っていたけど、有象無象の人間模様が映し出された世界にまた興味が出てきた。」


「テレビには中毒性がある。人間はランダムな刺激を求める欲求があるから、テレビから離れた視聴者が再び戻る現象もあるらしい。」


「何だかテレビが見たくなってきたわ。怖い怖い。捨てようと思っていたけど、どうしようかな。」


「無料で見られる媒体なんだから、置いておいてもいいんじゃない。たまに別世界を覗き込むくらいの気持ちで見ればどうかな。」


「そうね~。」






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