第213話 大人になる儀式

「やばい、市長式辞のカンペをどこかに置いてきた。トイレかなぁ。ハンカチを出した時に濡れたらいけないと思って、鏡面台の前に置いた気もする。」


「ダイラ市長どうされました?汗がダラダラ出ていますよ。」


「クワヤマダくん(秘書)、分かる?オレカンペ失くしちゃった。」


「え!カンペ無しで何話すんですか?」


「あー。なんもいえねー。去年はヤンキー共に滅茶苦茶にされて腹を立てたけど。この瞬間に暴れてほしいと思ってしまうのは我がまま?。」


市川平市 市長式辞


「キタッ!カンペ無しで行くしかない。こんな時こそ、出入り口でたむろっているヤンキーたちの出番だというのに、バカ騒ぎしていてこっちを見ていない。クワヤマダくん、あいつらを煽ってきてくれないか。」


「それはまずいですよ。何なら、式辞の前にあいつらを注意してみたら、何か反応すると思いますよ。市長が揉めている間に、カンペを用意しますから。」


「よし!それで行こう!」


市長、お願いします。


「はいはい。始めに、この晴れ晴れしい式の式辞の前に一言あります。そこの出入り口で騒がれている皆さまご着席ください。(この丁寧な言い方でも去年は反抗してきたからいけるはず)」


「お!市長さんのお出ましだ。話聞けって言うから、皆、席つこーぜ。」


「(おいおい、反抗して滅茶苦茶にしてくれよ。話なんか無いんだから!)」


「はーい。市長さん座りましたよ。お話どーぞ。」


「(あちゃー。作戦失敗。クワヤマダくん、はどこへ行った?カンペは?)」


「早くどーぞー!」


「(クワヤマダくん、どこへいったのー!)」


「ダイラ先輩、多分、明日の成人式はこんな感じで、困ってしまう市長や町長が続出すると思いますよ。」


「これはあるな。Z世代は反抗心が皆無だからね。市長や町長、村長の心が荒れる可能性があるね。昔、授業の準備が間に合わなかった先生が、クラスのヤンキーを煽って時間を潰していたようにはいかないよなぁ。」


「やっぱり、反抗する輩がいないと、大人が輝けない問題もありますよね。」


「ムサビの72時間も見たけど、ちょっときれい過ぎたよね。想定はしていたけど、最後の方で神輿をかつぐ学生すら美しい景色に見えたよ。」


「やっぱり、ムサビ生の中に反骨心がある奴をチラつかせてほしかったですよね。」


「そうそう、この学生に手を焼いているんだというのが、指導者側から滲み出てくると、多様性を受け入れるキャパがある美大なんだなぁと思われる。」


「ヤバい奴はこの大学で大人とケンカして浄化され、社会に放出されるから、社会の為には必要な場所かもと思わせる感じですよね。」


「大人バーサス子どもの構図は、子どもが大人になる前に一回やらないと、深みのある社会が構築できない気がするのは俺だけかなぁ。」


「もうこうなったら、僕たちが子どもになって、若者とバーサスするしかなさそうですね。」


「ブレイキングダウンが盛り上がっているのは、そういう社会の欲求があるからなんでしょうか。」


「人々はどうしようもないケンカを見るのが好きだから。本能に訴えかける魅力があるのだろうね。」


「成人になる前の泥まみれ文化を復活させたいですね。」


「子どもになるのは得意だぜ。Z世代にあやしてほしいわ♡」




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