第214話 AIダイラ誕生

「う~ん。違うなぁ~。何か違うんだよな~。」


「君は誰だい?」


「ボクはこのダイラ物語の作者が、二十数年前に黒部コラーレ水辺の広場で個展をやったときの作品に衝撃を受けて、芸術の道を歩み出したというものです。」


「あぁ。あの水面にボロ小屋を建て、その上に巨大な自分の顔を模した発泡スチロールを載せ、アメンボウのように長い手で箸を使ってゴミを喰い漁る彫刻だね。」


「ボクはなぜあんなものに人生を動かされたのか、今だに理解できていません。当時、近所の工場で働いていましたが、あの奇妙な作品を観た瞬間に仕事を辞め、貯金していたお金を投げうち、買ったばかりの新車を売り、東京に向かいました。」


「人生を変えた出会いだったんだね。もしかして、ヨシモトくん、あの作者の口車に乗せられたんじゃないの?」


「そう言えば、貯金したお金はすぐに使った方がいいよ。東京には凄い奴がいっぱいいるから、君は才能があるから今すぐに行った方がいいと言われました。アイツとは同い年で、こんな異世界を生み出す奴らが東京にいるのかと、ワクワクしました。」


「アイツは適当だなぁ。で、?」


「このダイラ物語は本当にボクの人生を変えたが書いているのが怪しいと思ったのです。」


「そう言われてみれば・・でも確認のしようがないからなぁ。最近流行りのAIで文章生成しているかもね。」


「これからはAIでクリエイティブする時代ですから、やっているかもしれませんね。あの作品を作った後、アイツはこれからは口先で生きていくと言っていましたし・・・。」


「でも、AIを操るのは結構難しいんだよね。オレも特殊照明作家市川平や、クーリングタワーズ、ドームのないプラネタリウムなどと文字を入れてAI画像生成を試みたけど、なんじゃこりゃというものばかり。AIの思考回路が今一掴めないよ。コツをつかむまではもう少し時間とスキルが必要だと思ったね。なかなか奥が深い。」


「さっき、ダイラさんが言っていた。『あの水面にボロ小屋を建て、その上に巨大な自分の顔を模した発泡スチロールを載せ、アメンボウのように長い手で箸を使ってゴミを喰い漁る彫刻』というアイツの作品の説明でAI画像生成を試みましたが、あの作品は生成されませんでした。」


「だろうね。それにしても、作品の要素を言葉で聞くと、アイツは一体何を表現したかったのか謎だわ。」


「AIの創造力は確かに人間を超えてきているかもしれませんが、AIからすれば人間の創造力に寄せることも大変難しいという理屈が成り立ちます。」


「AIと人間は別ものだわ。絵や彫刻を言葉で説明するのって無茶苦茶難しい。情報量が異常に増えるから。だから絶対に言えることは、AIは、人間の思考回路とは同じにはならない。見ている世界や経験値、出力入力の仕方そのものが違うから。」


「交わることがないからお互いに引き寄せられるのかもしれません。思考回路が全く違うという違和感は、山奥でサメと出会うくらいのショックはある。」


「アイツは当時からヨシモトくんにとってのAIだったのかもしれないな。」


「この奇妙な文章が正に、AIっぽいんですよ。変な文章って人間臭いのですが、AIもその奇妙さに寄せてくる。」


「何が言いたいのか分からないけど、何か意味や繋がりがありそうな気がしてくるから、不気味さが増すんだね。」







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る