第212話 大竹さんの心労
「大竹さん、そこのゴミは使わないでください!」
「いいじゃねぇか。オレはゴミをいじっていないと退屈なんだ。」
「しょうがねーな。では、あっちにあるゴミをリサイクルしてください。」
「オレはリサイクルって言葉が一番嫌いなんじゃ。しかも、あっちのゴミはオレの作品じゃ。」
「めんどくせーな。どれもこれもゴミだか作品だか分かんねーっつうの。」
「あれは作品でこれはゴミじゃ。」
「え?さっきあれはゴミでこれは作品って言っていましたよね。」
「そうだっけ・・。」
「大竹さん、大丈夫っすか?疲れているんじゃないんですか。もう、あれもこれも作品でいいんじゃないんですか。」
「まぁ。そうだな。楽しい反面、何作ってるのか分からなくなりカオスで心労が溜まっているかもしれん。でも、オレの人差し指で貼り付けた物じゃないと作品として認められないんだが。」
「さっき、膝でゴミを押し付けていましたよ。」
「頭で考える奴はろくでもない。」
「大竹さんはどこで思考しているのですか?」
「オレはムサビに補欠で入り休学して北海道に行ったとき、猛吹雪の中、三円しかなくて必死こいて雪の中で小銭を探したら、10円玉を見つけたんだよ。それで、バイト先の牧場に電話がかけられたんだ。命拾いしたんだ凄いだろ!」
「駅交番でお金借りたらよかったんじゃないんですか。」
「そういう合理的な奴はアーティストにはなれんのよ。ズレた熱さが必要なの。」
「確かに、大竹さんは浪費の塊みたいな人ですよね。合理的な社会に背を向けている。反骨そのものです。」
「牧場で毎朝1tの牛糞を片付けていたけど、あれがオレのアート思考にボディブローのように効いているんじゃ。ロンドンでデイビッドホイックニーと出会ったことが一番の糧だと思っていたけど、牛糞とアートはオレの中で同じだってことに最近気づいた。うんこはオレの起源だったわ。」
「もしかして、作品にうんこくっつけたりしていますか!?」
「まぁ。見てのお楽しみだわ。スクラップブックをめくってご覧なさい。」
「エロスクラップ千冊を目指しているみうらじゅんさんもそうですけど、大竹さんは本に何か執着でもあるんでしょうか。」
「オレらの若い頃は、世界観を拡張する媒体が本や印刷物でしかなかったんだよ。この世の全てを本に詰め込み持ち歩きたいっていう願望で作っているのかもしれん。」
「大竹さんには作風が無いような気がします。シンボリックでないというシンボルとでも言うのでしょうか。」
「オレはゴミ集積場の大きな電磁石って感じかな。」
「大竹さんが歩くとゴミが引っ付いてきますものね。」
「ゴミ集積場のゴミの山を見たら興奮するだろ。正直、あの山が羨ましくなるだろ。人間は文明化したことで暇な時間を生み出した。その時間を退屈にしないために浪費しまくったんだよ。オレらのことを消費者って言うだろ。浪費して消費しまくるのが、人間のステイタスになっちまったんだ。捨てられた物は汚くて臭くて目にしたくはないんだけど、実際にその塊を見ると自分のポジションが少し高くなった気になるんだよ。錆びれた過去を俯瞰しているような錯覚とでも言うのかなぁ。」
「なるほど、ノスタルジーなエンターテイメントなんですね。」
「ガキがうんこ見て興奮するのと同じだよ。文明のうんこを見て人は進歩したような気がして興奮するんじゃ。」
「クワヤマダくん、大竹さんのモノマネうまいね。でもかなり加色してる?」
「ダイラさん、大竹さんも大田区出身なんですよね。あんな底知れぬパワーを生み出す原風景が大田区にはあるのですか?」
「目まぐるしく変化する街だったから、その影響もあるのかもしれないなぁ。大竹さんは僕の10歳年上だから、かなり混沌としたときの街を見ているはずだよ。」
「大竹さんはアート界からもズレているように見えるし、コンセプチャルを嘲笑うかのようなパワー、ロックな感性はやっぱり魅了されますね。」
「大竹さんはもう時期70歳になるようだけど、どこにも到達していないと言っていたね。生き続ける限り電磁石としてのポジションを全うしてほしいなぁ。」
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