第59話 3D彫刻といやげ物

「最近、何でもかんでも、3Dプリンターでできちゃう時代だ。」


「どこかの彫刻家も、自分で作ることを止めて、全て3Dプリンターに任せているらしいよ。その作品群は動物シリーズなんだけど、結構、人気があるみたい。」


「ジョージ・シーガルというアメリカの作家は、衣服を着た人に石膏をぶっかけて、石膏取りをした人体を並べて、現代アートの世界に新しい概念を取り入れた。どこか、3Dプリントとの共通項があると思われがちだけど、私は違うと思うんだ。」


「造形意図を重視した、コンセプチャルアートとして見れば、似ているんだけど、3Dプリンターで生み出されたものに、作家のストーリーが入り込む余地がないかもね。」


「そうなんだよね。言い方に慎重にならないといけないんだけど、3Dプリンターを使って制作された作品って、みうらじゅんが概念化して世に広めたに通じる部分が多いと感じる。」


「いやげ物?」


「よく、親戚のおばちゃんとか、知り合いが、旅行先でお土産として購入してくる、置く場所に困る、天狗や熊の置物、瓢箪で作られた人形、やたら腹がでかい大黒様、安っぽい抽象彫刻のようなペン立てがあるじゃん。もらっても困るなおみやげで、いやげ物というんだ。」


「実家にもある!お母さんが捨てられずに困ったまま、数十年玄関に置いてある、フィギュアのナマハゲがある!」


「お土産には、罪はないよ。皆、一生懸命に作っているんだからさ。でも、あれを彫刻作品として見ることはないよね。だって、そこに作家のストーリーがないから。」


「確かに、アート作品の価値って、作家の人生観やストーリー、時代性が付随してくるもんね。」


「そこなんだよね。3Dプリンターの作品には、設計者や設計図はあるんだけど、スタートボタンを押したら、形ができるまでは、機械にお任せ状態でしょ。」


「ダイラ先輩みたいに、三角チーズクッキーを食べながら夜空を見ていたら、当初制作していたプラネタリアの作風が途中でガラッと変わったなんていうストーリ(第3話参照)は生れない。プリンターを途中で止められないしね。試行錯誤ができないところが、難題だと思う。」


「カンデンスキーは、ひっくり返っていた自分の絵を見て、歴史的なを発明したというストーリーが、作品の価値の一つとなっている。」


「そういう意味で、3Dプリンターの作品といやげ物のコンセプトが似ている気がするんだよなぁ。」


「いやげ物も、形ありきで、職人さんが意思を挟まず作りますものね。」


「でも、こんな議論は、時代遅れと言われると思うよ。3Dプリンターの進化は凄まじく、きっと作家の物語ストーリーなんか吹っ飛ばすんだろうね。」


「最近、AIの連中も幅を利かせているよね。AIと3Dプリンターで生まれたアートが主流になる時代もすぐそこかも。」


「新時代が来る過渡期にいる作家たちは、今後3Dプリンターとどう付き合っていくのか、楽しみだね。」


「よし、何でもチャレンジすることが大切!私も3Dプリンターでいやげ物を作ってみようかな~」


「フィギュアのナマハゲをリニューアルしたと言って、お母さんにプレゼントしたら面白い!新旧のナマハゲとして並べた状態で、もう数十年玄関先に置いてもらえるかもね。」






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