第90話 通信障害アート

「クワヤマダくん、今回の大手通信会社が引き起こした、通信障害でどんな学びがあった?」


「学びっすか?困っただけですよ。丸二日間、スマホの通信機能が使えないなんて、今まで経験ないですから。」


「固定電話を止めて、スマホのみにしている人たちも増えているし、街中のボックス電話も撤去されている。」


「スマホに全ての情報が入っていると言っても過言ではない現状、通信だけでなく、スマホが使えなくなったら、軽くパニックになりますよ。」


「ボックス電話に入っても使い方が分からない若者が増えているらしいよね。でもさー、昔は、携帯なんかなかったし、電話だってそんなに頻繁に使わなかったじゃん。そういう経験をした俺たちすらも慌てふためくなんて、どういうことなんだろう。」


「味を占めたんですよ。人は、おいしいものを食べたら、不味いものは食べられなくなる。簡単に繋がる便利さや旨味からは離れられないんじゃないんですか。」


「確かに、生きること自体が、人との繋がりだからね。活発だったネットワークが切られた瞬間、不安になるのは仕方ないか。」


「スマホが繋がらないと騒ぎながら、普段、顔も見ないし話もしない同僚と繋がったサラリーマンも結構いそうですよね。」


「繋がらないことで、別の繋がりが生まれた。学びだね。」


「1億円もらって一人ぼっちで生きるより、一文無しだけど、数十人の村で生きる方を人間は好んで選ぶ。ネットワークが強固なことが人間にとっての報酬だと思います。」


「世界を渡るバックパッカーの笑顔は本物だよね。飯さえ食えていれば、金より、人との繋がりを重視する、本能そのもの。」


「アーティストは孤独を愛するタイプが多いと言われるけど、孤独をやり切っている人は確かに少ない。大成している人は、なんだかんだ言って、無数のネットワークの中で生きている。アートで繋がれない人は、別のことをしてネットワークをつくる。」


「人と繋がらない、集まらないアートは、一種の通信障害と言うことでしょうか。通信障害を起こしている作品は、学生時代に山のように見ました。」


「だよね。だわ。逆に、注目されないアートを作る方が難しそうだけど、そういう分野を作って発表したら、それはそれで、人が集まっちゃって、注目されて、通信障害じゃなくなっちゃうみたいな。」


「通信障害な作品を作る奴らが、いじけて集まり、一つのネットワ-クを作る。それはそれで楽しいかも。」


「結局、今回の大規模通信障害で、ユーザーへの補償は何があるのかと期待感を話しながら、身近にいる繋がりやすい人間とコミュニケーションをとることの大切さを実感した期間になったんじゃないかな。」


「大規模な実験的なアートと考えれば、巷のアーティストのネタが増えた出来事だったかもしれませんね。ダイラさん、ダイラ物語 第90話が、こんなにゆるっとした感じで終わって、いいんですか?」


「通信障害すらもアートって言っちゃっているんだから、それはそれでいいんじゃないの。読者の方々は、想像力が凄まじい人たちばかりだから、このつまんない話題でも、その上を軽く越していく発想で、楽しんでくれると思うよ。」


「は~、よくここまで続いているなぁ。他力本願な作者ならではだわ。」



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