新人類ダイラ
第371話 バブルは永久(とこしえ)
ダイラのアトリエには、相変わらず無造作に散らかった新聞(奇跡的に残った)映画のパンフレットが山積みになっている。その中には「地球見旅行」「月面ホテル」「帰還できない新人類」といったニュースが溢れ、各々の話題が錯綜していた。
「結局さ、新天地だってさ、火星の連中も同じことやってんだよな。 洗濯、掃除、家賃の支払い。」ダイラは月旅行のパンフレットを手に取り、投げ出しながら言った。
「それどころかさ、今火星じゃ火星人がかじった石ってやつが流行ってんだって。あいつら、本物の火星人が噛んだとか噛んでないとかいう石に投資して、バブルが起こったらしいぞ。」クワヤマダくんが苦笑いを浮かべる。
「……で、そのバブルは弾けたと?」平さんが興味深そうに目を細める。
「そう。そいつら、火星のクソ狭いアパートで財産もなくしてさ、身動き取れなくなって閉じこもってるらしい。」クワヤマダくんは肩をすくめた。「新天地に行ったところで、同じようなことして結局失敗するんだよな。」
「地球に帰りたいって連中(新人類)も多いけど、旧人類は絶対に戻すなって意固地になってんだ。」ダイラは新聞を放り投げる。「そしたら次に出てきたのが、月から地球を見る旅行だよ。遠くから地球を眺めてノスタルジーに浸るんだってさ。」
「しかも、月面ホテルに泊まって地球見団子を食うんだろ?」クワヤマダくんが笑いをこらえながら言った。「アホじゃねえの?」
「団子で癒されるなら、もうそれは終わってるだろ。新人類のやることか?」ダイラは顔をしかめながら言う。「石をかじっただの、団子を食うだの、やってることが一周回ってシュールすぎんだよ。」
「まあまあ、そんなに突っ込むなって。」平さんが落ち着いた口調で二人をなだめる。「人間なんてどこに行ったって同じだよ。失敗して笑って、また始めるの繰り返しだ。」
「確かに。」その時、黙っていたクボタが、ぽつりと口を開いた。「火星がダメなら、木星に行けばいいじゃん。」
「おい、木星ってお前…あそこは地面がねえぞ。」クワヤマダくんが困惑した表情で言う。
「だからいいんだよ。地面がないなら、家事も掃除もする必要ない。」クボタは平然とした顔で答えた。
「結局、どこ行っても人間は同じだよな。」ダイラは窓の外を見ながらため息をつく。「地球を食い潰して、火星に移住して、次は石をかじるブームだ。」
「失敗したら、団子食いながら地球を眺めるってか。」クワヤマダくんが呆れたように笑う。「ほんと、人間って間抜けだよな。」
「でもさ、それでいいんだよ。」平さんが穏やかに微笑む。「間抜けを楽しむのが、人間の本質だからさ。」
「じゃあ次は木星で団子を作るか?」ダイラが冗談めかして言う。
「いいね、重力ゼロの団子なんて、新しいビジネスになるかもしれない。」クボタは真剣な表情で言った。
結局、人生は楽しむもんだ
5人はしばしの沈黙の後、声を揃えて笑い出した。未来がどうなろうと、どの星に住もうと、彼らの結論はいつも同じだ。
「結局、人生なんてさ、どれだけ楽しむかだよな。」ダイラが呟くと、全員が静かに頷いた。
そして、彼らの頭の中には、すでに次の旅行先のビジョンが浮かんでいた――火星でも、木星でも、人間の愚かさを笑いながら、いつかは地球に戻るその日まで。
「地球見団子を片手に、次は木星か。」クワヤマダくんが笑いながら言う。
「どの星でも、人間は変わらない。」ダイラも微笑んだ。
「木星に行く計画、本気で動いてるらしいぞ。」ダイラがコーヒーをすすりながら言った。「あのクボタの冗談から始まったことが、今じゃ本物のプロジェクトだ。」
「おもろい話だな。」クワヤマダくんが笑いをこらえきれずに肩を揺らす。「重力が何十倍もある星にどうやって住むんだよ?全員押しつぶされて終わりじゃねえか。」
「どうやら浮遊都市を建設するって話らしい。地面がないなら、空に都市を作ればいいって発想だ。」ダイラが新聞を広げて、プロジェクトの詳細を読む。「名前も決まった。『ゼロGシティ』だってさ。」
「ゼロGシティか…ふざけてんのか、真剣なのか分かんねえな。」クワヤマダくんは苦笑する。「でも、火星で石かじってた連中が木星行ったら、今度はクルクル回る車とかでバブルが弾けるんだろ?」
「まったくだ。」ダイラは頷きながらコーヒーを飲んだ。「あいつらの学習能力って本当にゼロだよな。」
「でもさ、なんで人間ってこんなにも新天地を求め続けるんだろうな。」ダイラは窓の外を眺めながらつぶやいた。「結局、どこに行ったってやることは同じなのに。」
「それは探求心ってやつだよ。」平さんが静かに答える。「人間は常に未知を求める。たとえそれが無意味だとしても、自分が知らない世界を見たいという欲望があるんだ。」
「だけどさ、火星もダメで、次は木星って…なんかえげつなくないか?」クワヤマダくんが反論する。「結局、失敗してもまた次を探してさ。無限ループだろ?」
「確かに、失敗だらけだ。でもその失敗が楽しいって部分もあるんじゃないか?」ダイラが微笑んだ。「お前だって、木星の重力に押しつぶされるところ見てみたくないか?」
「そりゃちょっとは面白そうだな。」クワヤマダくんは頷いた。「でもな、地球から離れることばっかり考えてる奴らを見てると、俺は逆にこの地球をもっと大事にしろよって思っちゃうんだよな。」
「お前も変わったな、クワヤマダくん。」平さんが穏やかに言った。「昔はもっと無鉄砲だったのに。」
「まあ、地球を見ながら団子食ってたら、色々考えちまったんだよ。」クワヤマダくんは照れ隠しのようにティラノサウルスから貰った胴体を撫でた。
「そういや、クボタがまた新しいビジネスを始めたらしいぞ。」ダイラが突然話題を変える。「今度は木星で重力に耐えるための強化スーツを売り出すらしい。」
「スーツだって?おいおい、クボタは木星行く気満々じゃねえか。」クワヤマダくんが驚いた表情を浮かべた。
「しかも、そのスーツ、デザインがなんか変なんだよな。甲殻類みたいな外見しててさ、みんなから『カニスーツ』って呼ばれてる。」ダイラが笑いをこらえきれずに説明する。「重力に耐えられるって理由で、もう予約が殺到してるらしいぞ。」
「さすがクボタ、どこまでも商売の才能がある。」平さんが感心したように言った。「でも、それを着て木星行くやつらもいるんだろうな。」
「結局さ、人間ってどこに行ってもバカなことしてるんだよ。」ダイラは再び窓の外を見ながら呟いた。「でも、俺たちはそのバカなことを楽しむために生きてるのかもしれない。」
「そうだな。」クワヤマダくんがしみじみと同意する。「火星でも木星でも、石かじって団子食って、結局また次の星を探すんだろうな。」
「それでこそ人間だよ。」平さんが微笑んで言った。「愚かだけど、そこに美しさもあるんだ。」
「じゃあ次の星では、どんな団子が流行るんだろうな?」ダイラが冗談めかして言う。
「カニスーツ着ながら、木星見団子でも食うんじゃねえか?」クワヤマダくんが笑いをこらえながら答えた。
そして、彼らは再び笑い合いながら、次のワクワクする冒険に思いを馳せた。未来のどこかで、また新しいバカなことをしている自分たちの姿を想像しながら。
「やっぱり、人間は間抜けだな。」ダイラは最後に一言そう呟いた。
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