第77話 色即是空・無いを買うアート
「ダイラさんの予言通り、アートを所有しないムーブメントが来ちゃいましたよ。僕の作品が全く売れなくなっちゃいました。」
「例えはえげつないけど、小学校の図工の時間、大好きな子が描いた絵を札束をチラつかせて個人で購入したら、絶対にその子やクラスメイトから訝しげな目で見られるだろ。表現は買うもんじゃなくて、皆で共有するもんなんだよ。教室の壁に貼って見合って、学期末に持ち帰るのがベスト!人類はそれが分かってきたんだね。」
「大好きな子のリコーダーが紛失したとき、多分あいつが盗んで個人所有していると想像した憎悪は計り知れないものがあります。」
「でしょ~」
「でも、それは、困りますよ!アーティストの生活が成り立たないじゃないですか!」
「ぼくちんに提案がありましゅ。」
「君は誰?」
「シキ、ソックンです。」
「何科?」
「仏教科です。」
「ムサビにそんな科あったか?」
「空アリを知っていましゅか?」
「みうらじゅんが提唱していた空アリでしょ。」
「ダイラさん、詳しいですね。」
「空は無いのに、駐車場には空アリと書いてあります。」
「色即是空の話?」
「この世に存在するあらゆる事物や現象はすべて、無であるということ。色はこの世のすべての事物や現象。空は固定的な実体がなく空無であることでしゅ。」
「万物の本質は、実体のない
「さしゅが、ダイラしゃん。話は進みましゅ。」
「で、何なんですか、空アリをどうしろっていうの?」
「人間の所有欲の根源は、所属欲にも通じましゅ。誰かと繋がっていたいという本能的な欲がアートの形を借りて行われていたのでしゅ。」
「大好きな子の絵を10分割にして切り売りするか、原本は本人所蔵で、コピーを売りさばくか、クラスのアイドルを皆で共有することで、共同体の結束を高める。」
「それが、所有欲の根源でしゅ。」
「では、今後のステイタスやムーブメントはどうなるの?」
「現実世界、NFT、メタバースでも、空気の缶詰がメガヒットしましゅ。」
「一昔前に、地方のお土産屋さんにあった!」
「無いがイイっていうムーブメントだね。」
「無いに高値がつきましゅ。例えるなら、バスキアの絵を買わない権利を買うみたいな。」
「無いを買うがカッコイイ!っいう価値観。無いを買ったマネーは、無いを売ったアーティストに入ります。」
「ということは、作品は個人所蔵で、実体の無い空を売りさばけるってことは無限に売れるってこと?」
「無い権利シリアルナンバーは無限に増え続ける。」
「人の欲はとこしえ、形や色を変えてでも、続きましゅ。」
「〇〇作の絵を買わないというタグに価値がつくんだね。ちょっと大人な、買わないカッコよさを共有する美学なんだね。」
「クラスでも、執着しない、さらりとした奴のほうがモテるもんなぁ。」
「大好きな子の絵を買わない権利を購入しないのが、その次のムーブメント!?」
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