第2話 屋根の上の秘密

両手にマスカケ線をもち誕生したダイラには利き手が無かった。


「今日はどっちで描いたでしょう。」と母親に見せる新幹線の絵は、どちらも差が無く、左右斜め45度からの描写力はかなりのものがあった。


両手に箸をもち「バルタン星人」と言いながら食事をするのは母に止めさせられた。


類稀たぐいまれなる集中力のある子どもで、一人で一つのことを徹底的にやり続けるため、近所の子どもとはあまり遊ばなかった。


段ボールや廃材を集め、テレビや科学雑誌で見た、近未来宇宙の乗り物を模倣してひたすら作っていた。


母は、ダイラの知識や視野、交友関係を広げようと、休日になると、映画や音楽、遊園地、デパートと、近所の子どもたち数人を連れて街を歩き回った。


ダイラは、母親の後をついて回るが、道中にある店のびた看板や、道路脇に積んであるアルミの廃材に目を奪われ、母親の企てくわだはうまくいかなかった。


いわゆる育てやすい子、普通の子ではなかった。

ある日、母親は絶句した。


2階建ての屋根の上で、昼寝をするダイラを見つけたのだ。


ダイラは完全に寝入っている。


普段寝相の悪いダイラは、ベッドから転がり落ちることがあることを母は知っていた。


母親は慌てて、父親を呼び、そっとダイラの元に行き、安全を確保しながら起こした。


隣の家の屋上に、当時珍しかった給水タンクがあった。


白いペンキで塗りたくられていたタンクは、アメリカ製だった。


球体を支える足4本の脚は、ペンキが剥がれ錆びていた。


「ママ、あのタンクの周りを電車が走っていたんだよ。」


寝ぼけ眼だったが、満面の笑顔だった。


母親は、強運であると巷で言われるマスカケ線に科学的な根拠はないと、信じてはいなかったが、この日ばかりは、ダイラの両手を泣きながら握りしめた。


屋根の上の秘密として、ダイラの心に深く刻まれた。










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