ダイラ物語

ビダイ物語

小平のダイラ

第1話 ドームのないプラネタリウム

ダイラは小平にある美大の彫刻棟屋上にいた。


後輩からもらった三角チーズクッキーをかじりながら、半分しけっていると思いつつ、口の中にムリヤリ放り込んだ。


世の中はバブル全盛期。

芸術論に華を咲かせていた仲間たちは、制作することを忘れ、ふらふらと夜の街で遊んでいた。


ディスコで照明が落下し、若者が亡くなる痛ましい事故があった。


夏の昆虫はライトに集まり、自ら燃え盛る。

人も虫も本質的には違いはない。


皆、光源を求めていた。



1988年 東京ドームが完成した。


東京は嫌味いやみに輝いていた。


ダイラは自分が置かれている現状に全く満足していなかった。


嘘っぱちな輝きを傍目に、穴が点在するチーズクッキーを見つめ、人々の業欲によりかき消された夜空から、数千個の星たちを想像した。


光GENJIの「パラダイス銀河」のノリは薄っぺらで嫌いだったが、子どもの頃から抱く銀河への思いが強くなっていることに気付いていた。


「東京ドーム?そんなのいらないだろう。チョルノービリ(チェルノブイリ)事故から人間は何を学んだんだ?原子力発電によって生かされてる俺たちって危ういよな。暗闇の中、化学兵器で虐殺されたクルド人のようになりたくないから?俺たちの生きる場所はそこしかないのか・・・つまんねーな!」


ダイラは悶々とした日々を背負い、ビッグバンのように膨らみ続ける鼓動を抑えきることができなかった。


理想とかけ離れていく社会と自分を繋ぐ何かを探していた。







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