第27話 クマのある男のドヤ顔
ダイラは、進路希望調査にムサビを志願していると書いた。
せいこうさんが、君はムサビと相性が合っていると言うもんだから。
しかも、藝大とは違いデッサンがそれ程厳しくないと・・。
それは大間違いだったと、数年後気付くことになる。
当時のムサビの彫刻科はデッサンに厳しい科だった。
彫刻科の洗礼を受けコテコテの人体を泣きながら制作することになるとは、この時はまだ知らない。
★
大学への目標は決まっていたが、その前にまず高校入試だ。
せいこうさんが言っていた、狭い世界での狭い考え方ではあるが、少しでも成績を上げたいと考えるのは本心、寝る間を惜しんで、受験勉強に励んでいた。
いつしか目の下にはクマができていた。
夏休みが近づき、塾の夏期講習の日程が決まる頃、クラスの悪い仲間が、ダイラの耳元で囁いた。
「ダイラちゃん、キャンプいこうぜ。数日勉強しなくたって、何も変わらないからさ~」
仲間たちと親に黙って、軽井沢にキャンプに行った。
親には、友だちと受験勉強の合宿をすると言っていた。
キャンプ場には若者がたくさんいた。皆、酔っているかのように、緩み切っていた。
この狂ったようにはしゃぐ若者たちは、中学生がクマをつくって勉強しているなんてどうでもいいんだろうなぁと思った。
ダイラたちは、川で釣りをしたり、泳いだりし、夕食のカレーを作って食べた後、キャンプファイヤーをやろうと、皆で薪やよく燃えそうな廃材や角材を探しに行った。
その辺をフラフラしていると、キャンプ場のスタッフらしき若者が数人やってきた。
「君たち、中学生?キャンプファイヤーは初めてだろ。俺たちが凄いのを作ってやるよ。」
そう言いながら、若者たちは、事務所に積んであった角材をもってきて、組み始めた。
ダイラは、若者たちの角材や丸太を組む手際のよさに、驚いた。
「君たちは、どこからきたの?」
若者のリーダ的な人が聞いてきた。その若者の顔をよく見ると、割と老けていた。目の下にはダイラと同じようなクマがあった。
ダイラたちは出身を伝えると、
「えっ?もしかして僕と同じ小学校じゃない?」
ダイラたちも驚いた。
キャンプファイヤーが完成し、ダイラがタイマツを持たされ、着火しようとすると・・
「おい、中学生、タイマツを持ったら、火の神様なんだぞ!キャンプファイヤーの周りを舞ってから着火しなよ。」
ダイラは、意味がよくわからなかったが、キャンプファイヤーの周りをウロウロし、タイマツを上げたり下げたりした。
ダイラは自分が火の神になったつもりで、奇声を上げながら、着火した。
「おっ!いいぞ!火の神様だ!」
キャンプファイヤーには異常なスピードで火が回った。
しかし、若者スタッフが組んだ角材や丸太は燃えてはいるが、中々崩れない設計になっていた。
格子状に組まれた丸太の中から、穏やかに放射される炎の様子は神秘的だった。
ダイラは、その情景に、自分の緩く激しく燃え上がる内面を重ね合わせていた。
光に照らされた同じ小学校出身の、割と老けたクマのある若者スタッフの顔は、かなりのドヤ顔だった。
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