仮面ダイラ
第61話 野外公開説教展
「彫刻科の学生たちを中心に、毎年秋頃やっている小平野外展を知ってる?」
「あぁ、ダイラ先生が当時の彫刻科生たちと小平市役所と何度も交渉して実現した、小平中央公園で始めた野外展覧会だろ。」
「彫刻科だけじゃなくて、他学科の学生も参加していいと聞いたんだけど、私も参加できるかな。」
「油科や日本画、デザインや建築の人たちも結構参加していたよ。でも、一つ気を付けた方がいいことがある。」
「何?」
「展覧会期間最終日に行われる講評会だよ。公開説教の場になるらしい。」
★
「このでかいだけのオブジェ?コンセプトは?」
「何となく、振ってきたというか、降りてきたというか、誰かに作れと言われたというか。」
「フフッ、私を笑わせてどうするの?コンセプトの意味を知っているの?」
「壁にある細くて小さい二つの穴です。」
「コンセントでしょ。」
「まぁ、コンセントでもいいわ。この作品を作った意味を教えてください。」
「この場所は広くていいかなと。野外展という場所を与えていただいたので、作りました。」
「だから、彫刻科の学生は、ダメなのよ。考えを言葉にできない。思いを言葉にする訓練をしないと、この先、生き残れないわよ。」
「このオブジェの上部?先端は、なぜ、空洞になっているの?影響を受けているのは、ヘンリームーア?ミロ?それともクリスト?」
「当初は、この先端に村上隆みたいなアニメチックな花を造形しよと思っていたのですが、FRPが足りなくなり、穴にしました。金欠感が出ちゃいましたね。影響を受けたりしたのは、村上隆のようで、実は岡本太郎の太陽の塔だったりします。」
「巨大なもの作ればいいみたいな考え方は、単純過ぎませんか。しかも、この胴体の色はどういう意味があるのですか?」
「直観ですね。小平公園も紅葉が始まるので、黄土色を塗ることで、風景と同化していいかなと。よく、コンクリートの日陰で休んでいる、蛾の群れやカゲチョロ、コウモリは、人影が現れた瞬間、バタバタと動き出すじゃないですか。あの影が動くような瞬間や感覚が気味が悪くて・・。自然と同化した中に、ボンと存在するオブジェがあったら気味悪いかな~と・・。」
「人を
「そういうわけじゃなくて・・。一つの例で言いました。制作した意味と言うか動機というかは、実家の父親が自営業を始めるので、看板になるオブジェを制作してと言われていました。野外展が終わっ後、実家の駐車場に設置します。」
「親孝行アート?悪趣味ね、これを駐車場に?」
「へい。」
「近所から苦情が出て、数か月で撤去になるかもね。」
「これは、大学2年生で、彫刻科アトリエの廊下でこっそり作っていた作品を野外展に設置して、先輩に講評されている場面だよ。傍からみたら、説教に聞こえるけど、このくらいは、普通らしい。先輩からの愛情なんだよね。キツイ批評をし合うことが、野外展のステータスになっているらしいよ。Mっ気のある人は、この公開説教を受けたくて、参加しているケースもあるみたい。」
「う~ん。どうしようかな~。私はどっちかというとサディズムなんだよね。」
「講評会だけ参加して、彫刻科の学生をターゲットに質問攻めにしたらいいんじゃない。」
「その方がおもしろそうね。」
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