第455話 恐怖のラーメンゲーム

12月31日。街は年越しの準備に追われ、人々の顔は忙しさと少しの期待で明るい。ダイラとクワヤマダくんも、馴染みのラーメン屋に足を運び、今年最後の一杯を楽しんでいた。


「せんぱい、今年もいろいろありましたね。でも、ラーメンだけは変わらずうまい!」

クワヤマダくんは湯気を立てるどんぶりを嬉しそうに見つめている。


「確かに。年の瀬にこれがないと締まらないよな。」

ダイラが麺をすすりながら答えた。


そのとき、店内に設置されたテレビが突然異音を発し、画面がブラックアウトした。代わりに映し出されたのは、黒い背景に白い文字。


「2062年未来人より、選別ゲームの開始をお知らせします。」


「…なんだよ、これ?」

ダイラが眉をひそめる。クワヤマダくんも箸を止め、画面をじっと見つめた。


次の瞬間、扉が閉まり、店内の電気が一斉に消えた。暗闇の中、赤いライトが点灯し、不気味な音楽が流れ始める。そして、声が響いた。


「これから、ここにいる皆さんにはゲームに参加していただきます。勝者には未来を生きる権利が与えられます。」


「なんだって?」

客たちがざわめき始める。


「ルールは簡単です。テーブルの下に置かれた封筒を開けてください。その中に今年の行動に基づいたあなたの評価が記されています。」


ダイラとクワヤマダくんは顔を見合わせ、恐る恐る封筒を取り出した。他の客たちも同様に、震える手で封筒を開ける。


ダイラの紙には「選択権あり」と書かれていた。クワヤマダくんの紙には「観察者」とだけ記されている。


「観察者って何だよ?」

クワヤマダくんが戸惑いの声を上げると、再び機械音のような声が響いた。


「選択権を与えられた者は、他のプレイヤーの命運を決める立場です。観察者は、ゲーム終了までその決定を見届ける役割を持ちます。」


「そんなの、冗談だろ?」

ダイラが立ち上がり、周囲を見渡すが、店の出口は完全に封鎖されている。


最初のゲームが始まった。「今年、最も無駄な時間を過ごしたと思われる人物を一人指名せよ。」


店内が静まり返る。赤いライトが不気味に回転し、客たちはお互いを疑い始める。


「何だよ、こんなの。選ぶ必要なんてないだろ!」

ダイラが怒りを露わにするが、声は無情に続いた。


「指名が行われない場合、全員が脱落します。」


「脱落って、どういうことだよ!」

クワヤマダくんが叫ぶが、客たちは動揺した様子でテーブルに視線を落とす。一人の中年男性が震えながら口を開いた。


「私が無駄な時間を過ごしてたかもしれない…でも、家族のために必死で働いて…」


その瞬間、別の若い男性が手を挙げた。

「彼だ。何度もラーメン屋で昼間から酒を飲んでいるのを見た。そんな奴こそ無駄だ。」


全員が息を呑む中、ダイラが椅子を蹴って立ち上がった。

「勝手に決めるな!こんなゲーム、何の意味があるんだ!」


だが、機械音の声は冷たく続ける。

「指名が完了しました。選ばれた方にはペナルティが課されます。」


その瞬間、中年男性の席の下から煙が立ち上り、彼は苦痛に顔を歪めたまま消えていった。


「せんぱい…これ、本当に…?」

クワヤマダくんの顔が蒼白になる。


「…クソ、こんなもん、誰が従うか!」

ダイラが怒鳴るが、ゲームは次々と進行していく。「最も信頼できない人物を指名せよ」「今年最も他人を傷つけたと思う行動を暴露せよ」――ラーメン屋という平和な空間が、不信と恐怖に満たされていく。


最終的に残ったのはダイラともう一人の女性客だった。最後のゲームが告げられる。


「お互いのどちらかを生き残らせるよう、投票してください。」


女性客は泣きながら言った。

「お願い…私には子どもがいるの…。」


ダイラは拳を握りしめた。だが、そのとき、クワヤマダくんが叫んだ。

「せんぱい!こんなこと、やる必要ない!」


ダイラは決意した表情で女性に向き直り、静かに言った。

「お前が生きろ。」


その瞬間、赤いライトが消え、店内は静けさを取り戻した。女性もダイラも無傷のままだった。


「選別は終了しました。あなた方は合格です。」


店の扉が開き、外には元通りの街の風景が広がっていた。だが、ダイラは無言でクワヤマダくんを見つめる。


「何だったんだ、今の…?」

クワヤマダくんが震える声で尋ねた。


「分からない。ただ、次があれば、もっと冷静に動かなきゃならない。」


新年を迎える街の喧騒が、二人を包み込んだ。だが、彼らの心に残る不安は、未来がもたらすさらなる試練を予感させていた。

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