超えダイラ

第201話 ドキュメント72時間

「ダイラさん、NHKの『ドキュメント72時間』にムサビが取材されたみたいですよ。」


「あぁ。ひとつの現場にカメラを据え、そこで起きる様々な人間模様を、72時間にわたって定点観測するドキュメンタリー番組でしょ。あれ面白いよね。」


「実はこのダイラ物語も『72hours』からヒントを得て200話まで突っ走ったらしいですね。」


「特殊照明作家市川平さんをオマージュしたダイラという架空のキャラクターを作り出し、ダイラの定点カメラから世界のあれこれを見つめる手法でしょ。」


「モノホンの市川平さんの視点から見た世界の様相や解釈が知れるのも、このダイラ物語のいいところですね。また、そこに付け加えられる様々な方のコメントはまさしく、72hに登場する人々です。ダイラ物語の作者は『72h』のファンで、土曜の昼下がり一人で観ているみたいですよ。あの番組は心に虚しさを抱えている人にはピッタリの番組ですね。」


「この作者は以前、『探偵!ナイトスクープ』もバリバリ推していたけど、ドキュメンタリーが好きなんだろうね。クワヤマダくんも結構好きな方なんじゃない?」


「ダイラさん、『探偵!ナイトスクープ』は泣けますよ。日常にあんなドラマが潜んでいるなんて、この世界は感動で溢れています。」


「まぁ。プロデューサーや脚本家の構成や編集がそう見せているだけなんだと思うけど、ムサビの『72h』はちょっと楽しみかも。」


「芸術祭の始まる3日前を取材したらしいですよ。」


「3年間コロナで中断されていたから、学生さんたちの芸術祭への思いが強く出そうだね。」


「学生さんの中には高校時代にムサビの芸術祭に憧れて受験した人もいるはずです。でも、コロナで芸術祭が出来ず初めて体験できた人たちには感慨深いものがあるでしょうね。何だかもう泣けてきました。」


「クワヤマダくん泣くのは早いよ。ムサビ生は昔から天邪鬼な人も結構多いからね。熱い思いがあればある程、その気持ちを見せない方向に行くへそ曲がり。取材されて、芸祭には興味ないよねと言い放ち関りをもたないTHEがいることも考えられる。それはそれでいいけどね。」


「ダイラさん、僕は彫刻科神輿を見ましたけど、コロナ明けには相応しい程、熱量がありましたよ。」


「しばらくから、当事者の勢いは凄いだろうけど、周りの学生の表情はどうだった?」


「・・・・。」


「そこを取材して欲しいよね。鎖国していた時間はエネルギーを蓄え新しい芸祭を放出する方向に行ったのか、今までと同じものを取り戻すためのノスタルジーだったのか。」


「クリエイターの卵たちですから、きっと新しい時代を創り上げたと期待したいです。彫刻科神輿もグレードアップしていたような気がします・・。」


「アートに情熱を注ぐ若者たちはどんな思いで作品に向き合っているのか。リアルな表情を見たいよね。」


「やっぱり、ハンカチとテッシュは用意して見た方がよさそうですね。」


「学生クリエイターをプロのクリエイターがクリエイトする番組をプロのクリエイターが観るんだから、クワヤマダくんや僕が泣いている場合じゃないけど、やっぱり感動する方向に誘導させられるのがオチかもね。でも世間は美大生をどう見て何を感じるのだろうか。」


「そうですね。元気を失っている世間は、美大の存在価値を冷酷にジャッジする可能性があります。美大の今後の存続に関わる重要な72hになるかもしれません。」

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