第202話 君たちはどう生きるか①
「引退詐欺で有名な宮崎監督が10年ぶりの新作を発表したらしいですよ。」
「まさか『君たちはどう生きるか』吉野源三郎氏が1938年に発表した児童文学からインスパイアされて作ったとは驚いたよ。どんなオリジナルストーリーになるか興味深いなぁ。」
「児童文学と言ってもあれは哲学書だから。この不安定な時代に哲学をぶっこんでくるとは、プロデューサーの鈴木さんも抜け目がないですね。」
「哲学書が輝くのはいつも戦争時か不況時と相場は決まっている。」
「ここ20年間は日本が劣化の一途を辿っていると世間で言う人が増えたから、その溜まりに溜まった負の世相を観察し見極め企画したのですね。」
「鈴木さんの時代を読むタイミングは秀悦だわ。奇人宮崎駿を天才に伸し上げた影の実力者であることは誰もが認めるわね。でも公開してみないと世間の反応は分からないけど。」
「私は、あの話をどうクリエイトするのか全く想像できません。」
「そうだね。例えば、コペルニクスが唱えた天動説から地動説に人々が考えを変えることが難しかった理由に、人間は自分を中心にして世界を見る癖があるからとコペル君のおじさんは話していたよね。(君たちはどう生きるか抜粋)」
「物事には正解やストーリー、因果関係があると思い込んでいる私たちは、宮崎映画を観た後に映画の内容が理解できない状態になります。」
「あれは、世界は自分が理解したいように動いていると勘違いしている私たちへの痛烈なメッセージなんだよ。」
「宮崎映画は物事に関係性や因果関係、ストーリーなんかあるようで実は無いことを言っているのですね。自己中心的な私達はついつい、自分の都合がいいように解釈してしまいます。その方が落ち着くし楽しめるから。でも、大概宮崎映画は見応えはあったけど、所々理解に苦しみ不快に感じるディテールが蔓延っている。あれは宮崎さんの仕込みだったのですね。」
「鈴木さんがギリ売れるようにコントロールしているけど、宮崎監督は本能で理解不能な世界観をぶっ放してくる。それが本当の世界だと言わんばかりに・・。」
「では、今回の新作は年齢的にも最後の可能性もあるから、意味不明な絵の繋ぎ合わせをじゃんじゃんバラまいてくるかもしれませんね。」
「あると思うよ。普通に誰もが理解できるアニメーションなんかそもそも興味ないんだから。奇人宮崎駿に返り咲く作品になると思うよ。特にご高齢だし自我から解放されて狂人と化しているんじゃないか。しかも哲学だからね。答えなんか無い世界だからフィーバーするに違いない。晩年の葛飾北斎を超えてくるよ。」
「企画にOKを出した鈴木さんは、宇宙人宮崎駿をどうコントロールしながら公開に導いたのかその辺も楽しみだ。」
「子どものころからハヤオ星の周りを衛星のようにクルクル回り続けた私たちは、最期にハヤオ星の引力や遠心力から解放され、宇宙の藻屑となりうるかもです。」
「劣化したクズだらけの日本らしい傑作となるといいね。」
「クズ?そう言えば、宮台さんも退院されて言論活動を再開しましたね。またトンマがどうのこうのって言うのかなぁ。」
「暴言の意味をそのまま捉えちゃう、言葉の文脈や裏解釈ができない人間が増えているから、さすがにそれはしないと思うけどなぁ。」
「でも、宮台さんは肝がすわっているから、もっと過激な言論家になりそうです。」
「宮崎映画も謎の映画だったとして、若者が離れていかないことを一ファンとして願うよ。」
「いろんな意味で楽しみになってきたわ。」
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