第28話 ツリーハウスのフラちゃん

ムサビに入学し前期課程の課題は、ほぼデッサンや塑像、石膏取りと知り、ダイラはしていた。


高倍率の中、苦労して入学したムサビだったが、ダイラ以外の彫刻科生の中にも、自分のやりたいことが見つからず、を発症していた者が複数いた。


話と違うぞ?おかしいなぁ?と思っていたのは、ダイラだけでは無かったのだ。


現代のようにスマホもインターネットも無い時代、人々の噂や、大学情報誌のスペースに書いてあることを頼りにするしかなかったため、ミスマッチは多発していた。※現代とは違い、ミスマッチを受け入れるのが当たり前の時代だった。


普段からに明るく、同期の中でも話題になり、自然と人の輪ができる不思議な子ちゃんも五月病に罹っていた。


笑顔だったかと思うと、急に落ち込みする様から、ナホちゃんはいつしか、ちゃんとあだ名がつけられた。


このよどんだ空気感を打破するために、同期の中で、何か面白いことをやろうという動きが生まれた。


ダイラに白羽の矢が立てられた。


「ダイラくん、何か面白いこと企画してよ!フラちゃんがこのままでいいと思わないでしょ!」


彫刻科の女性たちに言い寄られると、ダイラは断れない。


ムサビの敷地内は空き地のような場所があり、そこに、もみの木の老木があった。


ダイラは、幼少期、父親とツリーハウスを作った経験から、このもみの木でもつくれそうだなと完成イメージが持てた。


皆には黙って作り上げ、完成したところで披露しようと、課題が終わると作業を始めた。


「ダイラく~ん、何か面白いこと考えたの?」


アトリエで会うたびに、女性たちから詰め寄られる。


「任せとけって!準備しているから。」


ダイラは、自分の課題そっちのけで、ツリーハウス作りに打ち込むようになっていた。


教授は、課題に集中しきれていないダイラの存在を気にしていた。厳しい指導を入れても、目がうつろで反応が乏しい。指導の際、その場にいないこともあり、心配していた。


ダイラは、一端集中すると、とことんはまる性格の持ち主であり、頭の中はツリーハウスで一杯だった。


約2週間かけて、ツリーハウスは完成した。


サービス精神旺盛なダイラは、ツリーハウスに仕掛けをつくった。


カラフルなを枝が生い茂る間に挟み込み、デッキの上を見上げると、ツリーハウスが、風船で浮かび上がっているかのようなデザインにしたのだ。


デッキには紅茶を用意し、彫刻科の仲間を呼んだ。


ダイラが何かを作っていることは、仲間たちは薄々気付いていた。


ツリーハウスは定員が5名だったため、フラちゃんと、女性陣から上がってもらった。


高所が苦手な子もいたが、ダイラの技術力で、素人が作ったものとは思えない程の強度があったので、揺れは少なかった。


ダイラは、準備していた紅茶を差し出すと、フラちゃんが急に


ティーカップの中に、見たことも無い程カラフルなが浮いていた。


フラちゃんは、のけ反り、デッキの上で倒れた。


ダイラは、思わず吹いてしまったが、女性陣はフラちゃんを心配した。


気を失ったかのように見えたフラちゃんは目を見開き、大笑いした。


「ダイラくん、風船がすごい綺麗!このツリーハウス最高ね!」


みんなで、上を見上げ、風船を見た。


風船にはたくさんの毛虫がくっついていたが、なぜか見えた。


5月病を吹き飛ばしたダイラの功績は大きく、夏休みも更に面白いことを企画せよと女性陣から指示が出たことは言うまでもない。
















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