第103話 DAIRAMAN×世界

 ダイラは自分の中に住むTAROの存在により、もう一つの特殊な思考を得たようで、満更でもなかった。普段はダイラとしての振る舞いをしていたが、アーティストとの対談などで、言葉に窮した瞬間や相手の論理がまとまり始めたときに、TAROが顔を出してくる。「よ!DAIRAMANの出番だぞ!」と言いながらTARO節をかます。対談相手は、急に変貌するダイラに戸惑いながらも、話を成立させるために、論を軌道に乗せようと必死になる。そして、DAIRAMANはその軌道に乗せようとしている相手の足を引きずり、再び谷底へ落そうとする。そのやりとりが、TAROのイタズラであり、芸術とは何かを追求するための、禅問答なのか、ソクラテス式問答法なのか、いずれにしろ、批判的思考を活性化させながら、本質に迫ろうとする弁証法のようなものであった。


 DAIRAMANとは、ダイラ×TAROの対談後、TAROがダイラの体内に憑霊した際に、TAROに付けられた名称である。本日深夜NHKEテレで始まるTAROMANに趣向を寄せ、ダイラと融合させた。TAROMANは深夜5分間の放送で一体誰に見せたいのか分からない謎番組となっている。レアで特殊な番組枠に、日本中のTAROフリークは期待を寄せているが、深夜放送であり、ファンの年齢層が高いため、ほぼ皆見過ごすのがオチだろう。


サカナフィクションの山口ファンは観るかもしれない。


 ダイラとは、特殊照明作家市川平氏をオマージュした空想エッセイの中で生み出された架空の人物である。設定の全てがややこしく、こじれているように感じる方も多いと思うが、ダイラ物語の作者の思考回路の中では、太く逞しい物語の樹木、バオバブ・プランテーション(市川平氏作)が存在しているため、一貫して、アートとは何かを探っている物語として成立していると自負している。作者の思考の中では、市川平氏の存在が宇宙的であり、計り知れないブラックホールのような存在のため、直に扱うには規模が大きすぎ、ダイラという身近な立ち位置で活躍するキャラクターに置き換えたという経緯がある。


 小説のようなエッセイのような、対談集のような様々なテイストで表現されている本作品をいぶかし気で読まれている方も多いと聞く。人それぞれ、心に沁み込む文体が違い、どんな読者がどのタイミングで読んでも、それなりにダイラ物語の世界観を読者の感性で読み解けるようにしてある。本作品には、第何話から読んでも、それなりの納得解を得られる仕組みとなっている。


 某100回目に死ぬワニが、少し前にブームになったこともあり、ダイラ物語も第100話で終了すると誰もが信じて止まなかった。内容的にも限界が来ていると噂されていたからだ。作者の思考の中では、100回目くらいから、ダイラ物語で描きたかったことが見えてくるかもしれないという謎の期待感があっため、意気揚々と101話が始まり、周囲の期待を裏切った。


 ダイラ物語はあくまでも、巨匠市川平氏をオマージュした空想エッセイであり、それ以上でも以下でもない。作者の妄想が暴走し過ぎていて心配になるという声も寄せられるが、ダイラ物語の作者は数十年後の未来を見つめて執筆している。数十年後、世界で出版される「ダイラ物語・DAIRAMAN」を読んで、新しい美の世界を開拓する人々の笑顔が見えているのだ。世界中の悩める人々の道標となり、愛されてやまないロングセラーになっているはずである。市川平氏の功績を、ダイラ物語、DAIRAMANなる異形のコンテンツとして世に送り出すことは、作者の使命であると考えている。


 ダイラ物語が世界に羽ばたく登竜門として、みうらじゅん賞を市川平氏に受賞していただくことが前段階として存在する。市川平氏がみうらじゅん氏と二人で記念撮影をした後、後日談として、ダイラ物語の存在をみうらさんに打ち明けてもらう。


 ダイラ物語の異常さにグッときた、みうらじゅん氏はダイラ物語の挿絵を描くことを希望される。サブカル色、カウンターカルチャー色の強かったみうら氏のイラストがに当たり、ダイラ物語が日本中に駆け巡る。その本を手に取ったアメリカの編集者が、ジャパンで奇妙なアート本が流行っていると、NYでDAIRAMANを発行する。後は、流れに身を任せて、世界で空前のDAIRAMANブームとなる。


 これは、妄想でもなく、見えている未来なのである。


「TAROさん、DAIRAMANになると、適当なことペラペラしゃべっちゃうんですけど~。」


「いいのいいの、空想エッセイなんだから。」


 


 


 


 

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