第127話 TAROMAN論ロス

「最近、ダイラさん、元気ないよなぁ。」


「そうかしら、相変わらずなような気もするけど。」


「特殊照明の仕事で、いつもはやらないダンスをしているようだよ。」


「もしかして、TAROMANの謎ダンスかしら。」


「ダイラさんも気付かないうちに出ちゃっているらしいよ。一種のバーンアウト的なやつかなぁ。奇獣森の掟をなだめるときのダンス。」


「あのダンスはやばいよね。」


「まぁ、時間が経てば、いつものダイラさんに戻るのかなぁ。」


「私はTAROMANからはそんなに刺激を受けなかったけどね。」


「ええ!そうか、40歳以上の人たちは、TAROで育ってきているから、TAROという殺し文句でガッツリハートをもってかれちゃうんだよ。TARO論は強烈だから。」


「中年の人たち、完全なTAROMANロスね。」


「今の若い人たちは、TARO論を聞いたところで、?マークがついちゃうんじゃないの?」


「そうね。対極主義は何となく分かるんだけど、『重工業』という作品で機械とネギが対比で描かれているところを見ると、何でネギ?どういうこと?と疑問符が付いちゃった。」


「ネギってさぁ。あの頃の庶民の象徴でもあったんだよ。サザエさんの買い物カゴからいつもネギが飛び出していたんだよ。」


「芸術は爆発!と言っている割には、庶民派なのね。」


「TAROのパパは国民的な漫画家、岡本一平さんだからね。」


「なるほど、TAROの絵や彫刻から親しみを覚える理由が分かったわ。誰でも描けそうで、漫画っぽい感じが愛される所以なのね。」


「TAROさん自身も、皆さん、僕なんか簡単に超えることができますよ。芸術は誰でも心が自由になればできるのですからと言っていたくらいだから。」


「オープンで、そのままな人なのね。」


「TAROさんが亡くなったときのTAROロスも半端なかったなぁ。新しい絵画や彫刻作品が見られなくなる残念さもあったけど、やっぱりTAROさんは言葉(理論)が突き抜けていたから。」


「アーティスとは語らない人が多いから。TAROさんは特に目立ったのかしら。」


「母親が岡本かの子という詩人だったことも影響しているのか、凄い理論派なんだよ。TAROが執筆したがベストセラーになった理由も分かるんだ。」


「60年以上も前の本だけど、今でも楽しく読めたわ。」


「あの本は、100年先を見越して書いていたと思うんだ。」


「発売した当時は、灰汁が強すぎたと思うんだけど、今は納得しながら読めてしまう。しかも、皮肉が全然古くなく、相手を傷つけているようで、実はリスペクトしているという心遣い息遣いまでも感じ取れる。コンプラでがんじがらめの私たちの指南書にもなると思うよ。」


「社会常識や文化や風習について誰よりもよく知っていて、人の心の機微や立場を理解しながら、海外の情勢を冷静に分析していて、TAROさんの破天荒さのイメージが無くなったわ。」


「浮世離れしているように見せかけて、地に足がべたっとついた上での理論だからこそ、心を掴まれた。そして、日本を叩きながらも、最後まで見捨てなかったところが、よかったんだよね。」


「ということで、やっぱり、TAROMANの最終回が納得できない話に戻るんでしょ。」


「・・・。」









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