第163話 腐ったミカンの二次方程式②
「そもそもなぜカトウマサルは腐ったミカンに例えられたのでしょうか。腐ったリンゴやジャガイモでもいいようなものですが。」
「金八先生第二シリーズは、秋から冬にかけて放送されたんだよ。お茶の間の状態を想像してみると答えが出てくるよ。」
「こたつにミカンだ!」
「そうだよ。ミカンはリンゴと違って包丁いらずだろ、皮を手で剥けるし何個か籠に入れてコタツの机上に置いておける。」
「コタツの上にあるミカンを手にしながら、このミカンをカトウマサルのように腐る前に食べなきゃという思いに駆られる。マサルが放送室の立てこもったときなんか、日本中のミカン瞬間消費率は爆上がりだったと思うよ。」
「昭和の大家族は大概ミカンを箱買いする。ミカン箱に一個でも腐りかけやカビが生えたミカンがあると一気に周囲にも影響する。」
「そう言えば、箱の中の一番下にあるミカンを上部に掻きだすことをうちの婆ちゃんが時々やっていた。」
「空気の循環を良くして、少しでも長持ちさせるようにしたのだね。」
「でも、腐ったミカンも見つけると腐った部分だけ削ぎ落して食べされられたものです。」
「昭和の古い方の人間は腐った頃が一番美味いといって、腐りかけの物を食べる習慣があったんだ。母親が臭いをかいで大丈夫と言えば、見た目がヤバくても食わされたもんだ。」
「私はその母親の判断の誤りで何度か腹を壊しましたけどね。」
「カトウマサルが腐ったのか腐りかけていたのかは微妙だけど、あの辺の人間の状態を観るのが一番面白いんじゃないかなぁ。善と悪を行き来する揺れる存在は、興福寺の阿修羅像の人気とも繋がる。」
「三十三間堂のムキムキ阿修羅とは対照的ですものね。完成体よりも、未熟さに美学を観る日本人特有の美意識が隠れているとか?」
「あの頃は、受験戦争にハマれない、家庭が不安定、友だちができない、学校が嫌い・・でも、元気があって向上心も強い若者が日本中にいたんだ。」
「既定の評価や価値にはハマらない、同調圧力に屈しないパワーのある若者は腐っているとレッテルを貼られたが、実は他への影響力も強かった。」
「腐った社会に同調しない奴を腐ったミカンに例えた昭和ドラマの真骨頂だったのですね。」
「カトウマサル×学校社会をX2乗し、二次方程式で解くと解は±腐ってたになるんだよ。」
「どっちも腐っていた昭和の学校や社会を表現していたのですね。」
「あの中でも実は一番腐っていたのは武田テツヤという噂もあるけど・・。」
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