第144話 西暦2222年ポンコツ美術大学前夜

三世サンゼはゴカイチョウに行ったの?」


「クワヤマダコさん、この灼熱地獄の中、外へは出たくないなぁ。しかも、ゴカイチョウでは絶対は見られないからね。だからオレは行かないよ。」


「あなたの先祖がつくったものがヒブツになっているんだから。少しくらいは期待を寄せなさいよ。」


「まぁ、第四次世界大戦の戦火をくぐり抜けた作品として、ヒブツ化したと言われているから。」


「現存する資料には、そのヒブツの形が残っていないのよね。全て焼けちゃったらしい。廃墟と化したとある街に、原爆ドームの形態を模したドーム内にその作品はあったらしいのよね。」


「核シェルターから20年ぶりに出てきたニ本人が見つけた。その作品の内部には、作者名のQRコードが刻まれた石が転がっていた。そのデータを読み込んだら、オレの先祖だということが分かった。名前はダイラという名の人だったらしい。」


「でも、その作品を観た人間はもういないのよね。その作品を見つけた、ゼンコウという名の人が、無宗教ゼンコウズィ堂をつくり、その中に作ったセイシンとトキの部屋に作品を収納した。5重に鍵がかかっていて誰も観られないようになっている。」


「誰も観られないことから神秘性が増し、平和の象徴として、世界中からこのゼンコイウズィ堂のゴカイチョウに来るようになった。っていうか、放射線による汚染がおびただしくて、見せられないというのが事実らしいけど。」


「皆、セイシンとトキの部屋の前に大行列になる。中に何が入っているのか、各々が勝手に想像する。ゲンシの人々がやっていた、オジギやレイをしたり、オガンだり、センコウをあげたりして、与えられた1分間を自由に使う。」


「中には吠える人もいるらしい、踊ったり、ジャンプしたり、回ったり、本当に人間というものは何を考えているのか分からない。」


「大昔、原爆が落とされた第二次世界大戦後、ゼンコウズィのモデルとなった長野県の善光寺には本当に誰も見たことがない絶対秘仏があった。ただ、第三次世界大戦のときに、見てはいけないのある扉を開けた者がいたらしい。」


「どうなったの?何があったの?」


「それは言えないな。御本尊の存在を感じ拝むために善光寺に来た、延べ人数を知っているかい?」


「10億人くらい?」


「1000億人だよ。秘仏の情報は絶対に言ってはいけないことになっている。人間の尊厳を崩壊してしまうおそれがあるものだった。御本尊を見た奴は、すぐに取り押さえられてどこかに連れていかれたんだ。世の中には見てはいけない物が存在するんだ。」


「太陽の塔の内部もヒブツカしたと教科書に載っていた。」


「岡本太郎が実はトンデモナイものを制作していたんだよ。やはりこれを観た常人は人間性が崩壊するレベルのものだった。芸術は爆発だ!なんて実はかわいいものだった。」


「このゴカイチョウでは、ヒブツを観ること、ヒブツが何であるかを知ることが目的ではない。訪れる人々の中にある創造性を活性化することが大切なんだ。人間は創造性を無くしては生きていけないから。ただ、そのヒブツを観た人間は創造性を失うらしい。そこはどのヒブツも共通している。」


「そう煽られると余計見たくなるから悔しい!」


「オレの先祖、ダイラという名の人が作ったヒブツを想像するだけでもワクワクするだろ。だから、いちいち観に行かなくたって、涼しいところで想像してればいいんだよ。」


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