第143話 漂流大学⑩彷徨うドーム
「ダイラくん、このドームのないプラネタリウムは野外展に展示した後はどうするの?」
「まだ先のことは考えていないけど、完成したときの直観で、世に残すべき作品であると思った。どう残すかは分からないけど、長い付き合いになりそうな気がする。」
「初めて作ったものには特別な魂が宿ると言われている。それ以降、どんなに新しい試みをして表現形態が変わったとしても、初期作品の持つ主題に戻っていくらしい。そのくらい、初期作品のパワーは強烈だ。」
「このプラネタリウムにはドームがない。高校時代、演劇の戯曲を作った。そのクライマックスのシーンを造形化した。原爆で吹き飛ばされたドームがどこかで彷徨っている。ドームとの再会を待ちわびているプラネタリウムの哀愁を、この漏れ出す光が演出しているんだ。」
「戦後43年経ち、昭和が終わろうとしている。人々の忘却と共に、戦争は無かったかのように、街中の人々はバブルで狂ったように贅沢を享受している。」
「戦争は終わっていないし、これからも続くかもしれないと僕は考える。彷徨っているドームがいつか見つかり(作り)、これと再会させたいと思っている。」
「途轍もなく深淵なテーマなんですね。」
「1988年にカンブリア紀のように放出された日本のクリエーターたちの作品には、戦争の影がチラついている。特に戦争を間近に感じてきた上の世代。この狂乱とした今の社会を憂う気持ちは、僕にも勿論ある。こんな社会でいいのか。戦後の日本は間違っていないのか。でも、いつまでも戦争を引きずっていては、先に進めない。戦争を知らない若者が考える戦争へのレクイエムを形にすることは、あってもいいと思う。」
「無理矢理、戦争の影から脱却しようとしてきた日本には大きな歪が生じてきている。」
「その歪の隙間から、1945年にタイムワープして、原爆ドームを
「時代の渇望とシンクロすることで、作品に意味と価値が宿る。」
「ダイラさんはもしかしたら、昭和の次の次までを見越した創作物を生み出したのでしょうか。」
「そのまた次も見越している。多分、戦後80年も過ぎれば、戦争体験者はかなりの少数となる。そしたら、日本は再びどうなるか分からない。そのときに、この作品の真価が問われるような気がする。」
「長い闘いになりそうですね。」
「時代を超えて世の人々に問う、特殊な作品であることは間違いない。僕の使命は、この作品を可能な限り長く存続させることだと考えている。」
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