ウェブダイラ
第421話 人生は終わりの見えない片付け
(場面:ゴミ屋敷の一室。腐葉土のように層を成したゴミの中、ダイラとクワヤマダくんが手袋をはめ、ゴミ袋を持ちながら作業を続けている。埃が舞い、空気に重苦しさが漂う。マスクは真っ黒になっていた。)
クワヤマダくん
「うわっ!これ何ですかね?液体状の何かが…溶けた缶ビールか、それとも…スープの亡霊?」
ダイラ
「亡霊、いい表現だな。でもこれ、たぶん時間の亡霊だよ。この腐葉土みたいに層を成したゴミ、まるで年輪みたいだ。上は新しいけど、下に行くほど過去が詰まってる。」
クワヤマダくん
「年輪って言うと聞こえはいいですけど、ただのゴミですよ。ほら、これなんか雑誌だ。『平成8年最新家電特集』だってさ。泥みたいに変色してるけど、文字はまだ読める。」
ダイラ
(ゴミを掘りながら、つぶやくように)「クワヤマダくん、これって俺たちの頭の中と同じじゃないか?」
クワヤマダくん
「頭の中?いや、僕の頭の中はもっとシンプルですよ。ラーメンと筋トレと少しの仕事。」
ダイラ
「いや、もっと広い意味で。現代の人間全員のことさ。このゴミの層みたいに、俺たちの心や頭の中にも情報が積もり積もってるんだ。多すぎる情報、忘れたくない記憶、捨てられない後悔。それが重なり合って、動けなくなってる。」
クワヤマダくん
「それってSNSの話ですか?タイムラインもたまにそんな感じしますけど。」
ダイラ
「SNSもその一部だな。だけどそれだけじゃない。何千年もかけて人類が積み上げてきた知識や記憶の層、それが今や手のひらの中に収まる時代だろ?でも、その分、自分に本当に必要なものを見失ってる人が増えてる。」
クワヤマダくん
(掘り出したスマホの壊れた画面を見ながら)「確かに、この壊れたスマホも情報の墓標みたいですね。でも、情報の層が人類史上最高ってことは、逆にそれって誇るべきことじゃないですか?」
ダイラ
「表向きはそうかもな。けど、その層の下に何が埋まってるかが問題だよ。宿主さんも言ってただろう?この中に‘大切なもの’があるって。それを見つけ出さないと。」
クワヤマダくん
「大切なものって、そんなシンプルに見つかるんですかね?ほら、これとか500円玉がごっそり出てきましたよ!まさにお宝発見って感じでしょ?」
ダイラ
「それはただの金属の塊だろ。本当の‘お宝’って、もっと個人的で深いものだと思う。」
(数時間後。汗だくの二人がようやく床を見始めた中、古びたアルバムを発見する。)
ダイラ
(慎重にアルバムを拾い上げ)「これだ…これが‘大切なもの’だ。」
クワヤマダくん
「アルバム?まさか、それがゴール?」
ダイラ
(アルバムを開き、中の写真をじっと見つめる)「見ろよ、この猫と宿主さんの写真。この表情、この瞬間、これがたぶん彼にとって生きる理由そのものだったんだ。」
クワヤマダくん
(ため息をつきながら)「記憶と愛情の象徴か…。確かに、スマホの写真じゃこういう重みは出ないですね。」
ダイラ
(小さく笑って)「そうだ。けど、こういう大事な記憶も、情報のゴミの層に埋もれるんだ。俺たちの頭の中でも同じことが起きてる。何が本当に必要で、何がただのノイズか、それを見極めないと自分を見失う。」
(その時、宿主が部屋に現れ、アルバムを手に取り、猫の写真を見つめながら静かに涙を流す。)
宿主
「これだ…これが俺の探してたものだ。」
クワヤマダくん
(宿主の表情を見つめながら)「宿主さん、良かったですね。でも…これ、なんか現代アートみたいですね。ゴミの層も、壊れたスマホも、全部が一つのインスタレーションみたいに見えてきた。」
ダイラ
(ふっと笑いながら)「‘情報の断層’ってタイトルにしたら、今の時代には受けそうだな。」
クワヤマダくん
「いいですね。人生の断層と情報の断層の二本立てですよ。これ、展示会やりましょうよ!」
ダイラ
「その前に、人生は壮大な終わりの無い片付けだと思わないか?底が見えない日々の中で、大事なものを探し続ける。それが俺たちの生きる意味なのかもしれい。」
(舞い上がる埃が微かな光に揺れ、部屋に一瞬の静寂が訪れる中、二人はまた手袋をはめ直し、笑いながら作業を再開する。)
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