第422話 Webラーメンの巣
(場面:未来の廃墟となった博物館。その中では、天井から床まで張り巡らされた巨大な蜘蛛の巣が朽ちた人工物を絡め取り、神秘的な輝きを放っている。ダイラとクワヤマダくんは懐中電灯を手に探索中。)
クワヤマダくん
「うわっ、また顔に当たった!先輩、ここ本当に蜘蛛の巣だらけですね。顔中ベタベタで気持ち悪い!」
(顔を拭きながら蜘蛛の巣を指さす)
「こんなにデカい巣、普通ありえないですよね。500年も経つと蜘蛛って進化するんですか?」
ダイラ
「ルイーズ・ブルジョワの《ママン》を思い出すな。あの大きな蜘蛛の彫刻も、こうやって人間を絡め取る存在としての蜘蛛を象徴してた。」
(懐中電灯を巣に当てながら)
「蜘蛛ってただの害虫ってわけじゃない。ブルジョワは“蜘蛛は母”だって言ってた。織る、守る、包み込むって役割を持つ存在だってな。」
クワヤマダくん
「守る?これがですか?ブルジョワの《ママン》は確かにアートでしたけど、これ、ただの罠ですよ!僕ら、まるで捕らわれた昆虫ですよ!」
(クワヤマダくんが懐中電灯で大きな蜘蛛の巣を照らすと、古いロボットのパーツや書物、割れた鏡が絡め取られているのが見える。)
ダイラ
「それでも見てみろ、この巣。人間の過去500年分が絡まってる。朽ちた技術、忘れられた記録、壊れた道具…すべてがここに集約されてる。」
クワヤマダくん
「これって、歴史のゴミ箱みたいなもんじゃないですか?蜘蛛が500年かけてゴミを集めただけですよ。」
ダイラ
「そうか?これは蜘蛛なりの時間の記録かもしれない。ほら、芥川龍之介の『蜘蛛の糸』を思い出せ。糸一本で地獄から救われるかもしれないって話だ。蜘蛛は、人間の救済にも罰にも関わる象徴だよ。」
クワヤマダくん
「救済って…芥川の話じゃ最後みんな地獄に逆戻りだったじゃないですか。あれ、教訓どころか、ただの残酷物語ですよ!」
ダイラ
「でも重要なのは、その糸が存在したってことだ。地獄の中でも、上を目指そうとする希望があったんだから。」
(巣の中に絡まった古びた鏡を手に取りながら)
「これなんか、救いを求めた人間の痕跡かもな。ほら、文字が書いてあるぞ。『救いの糸を求む』…だとさ。」
クワヤマダくん
「なんか話が哲学的になってきましたけど…結局これって、ブルジョワの蜘蛛の彫刻みたいに象徴を持たせたらアートになるって話ですか?」
ダイラ
「いや、500年後の蜘蛛の巣にはもっと直接的な意味がある。これは、人間が作ったものと自然が絡み合って、新しい形を生み出した象徴だ。」
(巣を見上げながら)
「ブルジョワはこう言った。“蜘蛛は危険でありながら、不可欠な存在”だって。もしかしたら、この巣も未来の人間にとってそういうものだったのかもしれない。」
クワヤマダくん
「危険で不可欠…それ、僕たちみたいなもんじゃないですか。タイムトラベラーってだけで、時々妙なことしてますし。」
ダイラ
(微笑しながら)
「確かにな。けど俺たちは蜘蛛みたいに美しい巣を張れてるかは怪しいな。」
(ふと懐中電灯を消し、二人は頭上の夜空を見上げる。エメラルドグリーンの銀河が渦巻き、蜘蛛の巣と一体化しているように輝く。)
クワヤマダくん
「先輩、500年後の人間には僕たちの何が残るんでしょうね?巣みたいなもの、作れるんでしょうか。」
ダイラ
「たぶん作れるさ。ただ、ブルジョワの蜘蛛みたいに、絡み合う美しさを見つけられるかは別の話だな。大切なのは、どれだけ繋げたかじゃない。繋がりから何を生み出すかだ。」
クワヤマダくん
(しばらく考えた後)
「…ラーメンってことですかね?」
ダイラ
(爆笑しながら)
「クワヤマダくんのラーメン哲学には感心するよ。ラーメンの巣ってとこだな。ウェブラーメン。」
(カメラが引き、蜘蛛の巣の巨大な構造と銀河が重なり、未来と過去、人間と自然の繋がりを象徴するような壮大な画が広がる。)
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