第397話 春風亭大良(ダイラ)
浅草・鈴村演芸場にて。二つ目噺家・春風亭大良(ダイラ)が今日も高座にあがり、「動的平衡(どーてきへいこー)」なんて小難しい話をかますってんだから、会場は早くもざわめいています。
ダイラ:「えぇー、お集まりの皆さん!今日は‘どーてきへいこー’ってなことを話させていただきやす!まぁ、噛み砕いて言やぁ、“人間ってのはコロコロ変わりながらも、どっかでうまく釣り合い取ってんだ”っちゅう話でございやすよ。」
客席に笑いが起き、ダイラが話を続ける。
ダイラ:「こないだ、あの大暴れ親分・ダンシの話を思い出したんですけどね。“鈴村にシャワーをつけろ!”って大騒ぎしやがった。噺家にシャワーなんざ必要か?と思うだろ?だが、ダンシがどうしてもっつうから仕方なく付けたわけです。で、ダンシがあの世へ行っちまった後は、“もったいねぇから喫煙所にしよう”ってな具合で変わっちまったんですわ!」
観客は大爆笑。その時、ダイラがふと真顔になり、江戸っ子のご隠居・風呂好き平さんの話に切り替えます。
ダイラ:「そこで平さんが言ったんだ。“どーてきへいこーってのは、風呂場みたいなもんさ。水は毎日変わっても、風呂場自体は変わらねぇ”。人間もなぁ、毎日コロコロ変わるけど、心のどっかに変わらねぇ芯がある。それが粋ってもんだ、ってよ。」
ダイラは、平さんの口調を真似ながら江戸っ子らしい軽妙さで話します。観客は思わず聞き入ってしまいます。
ダイラ:「そう考えると、古い話ですけど、あの“方丈記”の鴨長明って人も似たようなこと言ってたんじゃねぇかと思うんです。‘ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず’なんてね。あれは“人間は変わるけど、その名前や芸の伝統は続いてく”っちゅう話でもあったんじゃねぇか。」
観客はハッとした様子でうなずき、また笑いが広がります。ダイラはさらに話を続けます。
ダイラ:「ほら、噺家ってのもそうだろ。どんどん名前を受け継いでいくわけですけど、名前は同じでも、噺家本人はその時々で違う。わたしも5代目大良ですが、だからこそ噺も生き生きと続いていくんでさぁ!」
その瞬間、ダイラが一転して軽くしめます。
ダイラ:「まぁ、そういうわけで、鈴村のシャワーが喫煙所に変わろうが、噺家の魂は変わらねぇ。これが‘どーてきへいこー’ってやつでございやす!これこそが江戸の生き様ってやつなんでさぁ!」
観客から大拍手。ダイラは江戸っ子の粋と伝統文化の妙を、軽妙に笑いへと昇華させました。鈴村演芸場の“どーてきへいこー”の教訓が、今日もまた観客の心に深く刻まれたのです。
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