第20話 バルタンの涙

ダイラ少年は、デパートの屋上で開催される、バルタン星人との大会のため朝からテンションが爆上がりだった。


あのバルタン星人に会い、ジャンケンで勝つことができる、夢のような日だった。


長蛇の列に並び、子どもたちがジャンケンをし勝ち続けるなか、ダイラの番が来た。


「じゃーんけん、ぽん!」


ダイラは興奮のあまり、を出し、あいこでパーを出しまさかのけとなった。


「フォッフォッフォッフォッフォッ」と聞きなれた声が、屋上に響き渡った。


勝てば、バルタン星人の下敷きがもらえたが、全く悔しくはなかった。


バルタン星人のなはからいで、ダイラを肩に乗せ、一緒にバルタンポーズで写真を撮ってくれた。サイン会は無かった。


それから、ダイラは写真に写るときには必ず、人差し指と中指、薬指と小指を合わせ、をしている。


1952年 美大の西洋画から彫刻科へ転科してきた男がいた。


幼少期、囲炉裏の左手を大火傷した、だ。


どうやら、西洋画の教授とやり合ったようで、彫刻科に転がり込んできた。


成田さんは、学生時代から特撮・怪獣映画に興味があり、東宝のにアルバイトで参加していた。


以降、円谷プロに入り、ウルトラマンシリーズのデザイナーとして活躍する。


ウルトラマンをデザインした際には、を参考にしたことは界隈では有名な話だ。


成田さんのデザインには、特徴があった。


無駄を削ぎ落しつつも、キャラの本質を掴むユニークな形態、日本(和)的だった。


成田さんには、怪獣のデザインの三原則があった。


一、怪獣は妖怪ではない。手足や首が増えたような妖怪的な怪獣は作らない。

一、動物をそのまま大きくしただけの怪獣は作らない。

一、身体が破壊されたような気味の悪い怪獣は作らない。


バルタン星人は、セミとザリガニのミックスのため、やりようにはグロテスクになる。しかし、成田さんは、バスを待つを彷彿とさせる、両手バサミを顔の横に上げていても、不自然に見えない、硬質感のあるフォルムを生み出した。


宇宙難民として、宇宙船修理のために地球に立ち寄るという、ナンセンスな設定であり、そのハサミで何をどうやって修理するのという突っ込みを入れたくなるバルタン。


そこに、左手を成田さんの思いが隠されている。


火傷をした手のことでいじめられた経験もあり、不自由な生活の中、右手だけでできる絵画の道に進んだ。


その後、片手で彫刻をすることを選んだことで、世界が広がり、日本中の子どもたちの心を掴むデザイナーとなった。


バルタン星人は、「生命」を理解出来ないまま、地球上でれる。


地球との共存を選んだウルトラマンは、何とかして「命」を理解させようと奮闘する。


自己中心的な世界観で突き抜ける、バルタン星人は、若かりし頃、美大でした成田さんだったのかもしれない。


ダイラは成長期に、成田先輩が生み出したウルトラマンや怪獣たちの良質なデザインを栄養に育ち、心に刻み蓄えた。


ダイラの作品群がもつ、ダイナミックでセンチメンタル、哀愁漂う世界観は、成田DNAの一端かもしれない。


今日も作品の横で、バルタンポーズを決めている。






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