第196話 言論と暴力の狭間

「言葉は文脈が読み取れない人にはただの凶器となることがある。」


「くず人間=オレのことか!と思ってしまう。前後の文脈から考えれば、個人を特定して言っているわけではないし、抽象的で一般論を展開するためのキラーワードでしかないことに気付かず勝手に恨みを募らせてしまう。」


「凶器としての言葉を突き付けられたのだから、リアルな暴力で攻撃しても構わないというロジックを成り立たせてしまう人間がいる。」


「今回の事件のこと?」


「犯人が見つかっていないから犯行動機は不明だけど、最近、鋭い言葉を放つ人々が暴力の犠牲になっている。」


「言論の世界に暴力はありえない!言葉の表層的な部分だけを切り抜くメディアやSNSの責任は重い?」


「強い言葉は人心を惹きつけ視聴者数や登録者数で稼ぐけど、文脈を理解せず刺激的なワンフレーズだけで人間性を判断してしまう風潮がある。言葉狩りの勢いが止まらない。」


「失言なんか人間誰しもあって当たり前なはずだけど、立場や役職が上の人たちの言葉には鋭い視線が向けられる。一言の失言でその人物を全否定してしまう時代だ。」


「言葉でやり合うルールを理解できない人が増えているんじゃないかな。言う方も聞く方もですけどね。」


「MCバトルの呂布カルマのようにラップでディスり合うのは面白いし、そこには暴力は存在しない。言葉のスポーツとして、皆ルールの中で楽しんでいる。」


「小説でやばいことを書いたからといって、作者の人間性を否定することはまずない。」


「小説の読者が少数だし、長文を読み込もうとする人間は、文脈も理解できる。そもそも小説のコンテンツの意味を理解している。」


「SNSや切り抜きで単語だけで思考する人間が増えたことで、今回のような事件が起こったの?」


「様々な見方があるけど、発言の一部分だけクローズアップしてしまうメディア情報を真実と思い込んでしまう習慣がある人間が増えているんじゃないかなぁ。」


「言葉の力を感じ過ぎ、感化され過ぎてはいけないよね。」


「そうそう、所詮言葉なんか、喉の振動に過ぎないんだから。森のざわめきと違わない。一瞬で消えるし、意味があるようでそれ程大した意味もない。」


「でも、その言葉に強い意味を感じ暴力に転嫁してしまう人がいる。」


「やっぱり、その狭間にアートが入るべきよね。」


「言葉と暴力は相性が悪い。アートは言葉と暴力を緩和する作用がある。」


「やっぱり、言葉にも暴力にもならないアートは人々の営みの中に必要不可欠なものとしてあるべきなんだよ。」


「太古の時代からアートが欠かせないのは、言葉と暴力の狭間で存在感を放っていたからなんだろうね。バランスが崩れた瞬間に言葉と暴力が暴走する。」


「アートの存在感が増してきている現代の様相は、もしかしたら言葉と暴力のバランスがかなり悪くなっていることの裏返しかもしれない。」


「アーティストには言葉と暴力がぶつからないように、バンバン作品をつくってもらいたいね。」









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