第195話 サムライブルーと日比野さん
「昨日のサムライブルーVSコスタリカ戦、悔しかったよなぁ。」
「サッカー?私全然興味ないからリアルタイムでは観てないけど、やたらとミスを犯した選手に批判が集まっていることは知ってるよ。」
「ドイツに勝ったときはお祭り騒ぎで、負けると戦犯を探してスケープゴートしちゃうのが人間の愚かさだな。」
「サッカーに熱狂するタイプの人たちってそういう思考回路なの?」
「冷静沈着に観れないのがサッカーなんだ。サッカーは少年を大人にして大人を紳士にするスポーツと言われているけど、あれ、完全に間違えている。」
「分かった。紳士を少年に戻すんでしょう。」
「大正解!90分間激闘して一人のミスで試合が決まるように見えるのは、見ている人間の知能が単純化されちゃうからなんだ。感覚が急に幼くなる。選手も紳士であり続けたいところだけど、W杯決勝でのジダンの頭突きやクリロナみたいに試合中に帰るやんちゃな中2みたいな精神状態にどうしてもなるんだよ。そこが魅力の一つなんだけど・・。」
「ゴールにボールを入れる単純なルールの割りに過程が複雑だものね。しかも、今大会カタールの人権意識の低さに各国の人権団体が抗議しているなんて、スポーツの枠を超えている。ドイツ人の70%が抗議のためにドイツ代表戦を視聴しなかったらしい。」
「吉田選手のクリアミスから相手にボールを奪われて失点したのは間違いないんだけど、そこに至るまでに起きた様々な現象が全て繋がっているんだ。だから、一人の責任というよりは、ピッチにいる選手やスタッフ、応援している全ての人間が実は関係しているんだよね。ドイツの勝利でバカ騒ぎしたあなたの雰囲気が選手に伝わっているのです。」
「だから皆熱狂するし思考回路も狂うんだね。勝敗が自分事になるからこそ、そのストレスから解放されたくて、戦犯を追求するスケープゴート現象が起きる。」
「これはサッカーだけの現象ではなさそうね。」
「そうそう、日常生活でも物事がうまくいかなくなると、誰かのせいにしたり時代のせいにしたりするでしょ。生贄や贖罪の考え方だ。」
「私もすぐに人のせいにしちゃう方だけど、芸術やアートにはそういう感情を緩和させる効果があるような気がする。」
「生贄の代わりに装飾品や兵馬俑に見られる兵士及び馬をかたどったものなどで代用することで済むんじゃねえのと先人は気付いた。そこから、何だか分からないもやもやした感情をアートで投影することを発明した。簡単に言うとそんな流れ?」
「そうそう、だからサムライブルーが負けたときは、アーティストが緩和剤となって選手とサポーターの間に入るべきだと思うんだ。」
「そう言えば、東京藝大の学長さんはJFA(日本サッカー協会)の理事をやっている!」
「こんな時こそ、段ボールで何か作ってほしいよね。緩衝材くらいにはなるんじゃないの、日々何やっているのかしら・・。」
「段ボールで緩衝材!こらこら、それも立派なスケープゴートだよ。敗戦を受け止めて、サムライブルーを心から応援しようよ。」
「私、どっちかと言うとスペインのファンなんで・・。」
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