第449話 ふわふわ受験生

月が冴えわたる寒い夜、ダイラとクワヤマダくんはカフェで熱いコーヒーを飲みながら話をしていた。話題はSASUKEから、受験シーズン特有の「落ちる」という言葉の重さから、なぜ人間はそんな言葉を使うのかという哲学的な方向へと進んでいた。


クワヤマダ:「先輩、もし人間が無重力空間で育っていたら、きっと『落ちる』って概念そのものがないですよね。SASUKEもないな。」


ダイラ:「確かに、無重力なら上下の感覚も曖昧になるだろうな。そもそも、落ちるっていうのは重力が生んだ発想だし、だから受験不合格を『落ちる』って言うわけだ。」


クワヤマダ:「じゃあ、無重力空間で受験があったとしたら、不合格になったときは何て言うんでしょうね?」


ダイラ:「うーん…『漂う』とか、『流れる』とかになるんじゃないか?無重力では、物事はただ漂うだけだし、どこにも落ちることはないだろう。」


クワヤマダ:「『ああ、違う方向に流されたな』って感じですかね。なんかちょっとポジティブな感じがしますね。」


ダイラ:「そうだな。むしろ、無重力空間では不合格そのものもそんなに大した問題にはならない気がするよ。だって、重力がないんだから、『失敗した』って感覚すら軽くなりそうだ。」


クワヤマダ:「そう考えると、腹落ち(納得)するっていう表現も変わりますよね。無重力だとお腹の中にモヤモヤが浮かんで漂うだけで、落ちる感覚なんてないですから。」


ダイラ:「そうそう。無重力空間の人間にとっては、全てが『漂う』か『寄り添う』になるんだろうな。結果的にどこに行き着いても、それがその人の場所になるって感じか。」


クワヤマダ:「それって、無重力空間の人たちの哲学はもっと柔軟で、すべてを自然の流れに任せるものになりそうですね。」


ダイラ:「そうかもしれないな。地球の重力が人間に与えた影響って、物理的なものだけじゃなくて、考え方や感じ方にも大きく影響してるんだ。『落ちる』という感覚があるからこそ、人間は失敗を怖がるし、でもその怖さが進化や挑戦につながってる。」


クワヤマダ:「じゃあ、もし無重力空間で生きている人たちが地球に来たらどうなるんでしょうね?」


ダイラ:「たぶん、重力の存在に戸惑いながらも、『なんだ、この不便な力は!』って言うんじゃないか?地べたにへばり付いたまま動けなくなる。それでも、重力のある世界を知れば、彼らなりに新しい哲学を編み出すんだろう。」


クワヤマダ:「もしかして、僕たちも『落ちる』って言葉を使わずに、もっと漂うとか寄り添うっていう柔らかい言葉を使うべきなのかもですね。」


ダイラ:「そうだな。受験だって人生の一場面にすぎないんだから、『流れ着いた場所で何ができるか』を考えるのが一番だよ。」


コーヒーを飲み干したダイラがふっと窓の外を見ると、街灯の下を歩く学生たちの姿が見えた。どこに行き着くにせよ、彼らの未来が地球の重力に縛られるだけでなく、新しい方向に漂っていくことを願っていた。

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