第93話 すみっコぐらしの命

「君の命は誰のものだと思う?」


「え?自分のものですけど・・。」


「それは確かなこと?」


「自分の意思で生まれたわけではないので、親のもの?」


「本当?実は誰のものでもないんじゃない?」


「そんなー!」


「あなたは、誰かから生まれて、誰かと誰かに育てられて、誰かとともに生きている。自分が誰かなんて、一応名前はついているけど、あなたの名前をつけた人や、あなたを知る人がいなくなれば、本当にあなたは、あなたなのか、確かめる術もなくなる。」


「怖い話は止めてくださいよ。そんなこと言われたら、孤独感半端ないですよ!」


「そう、孤独な人が増えている。」


「自分は何者でもない、誰とも繋がっていない、周りに人間のようなものがたくさんいるが、誰も話もしてくれない、無人島で生きるような感覚・・。」


「人間は、人との繋がりを報酬として生きる本能がある。その報酬が無くなったら?孤独になり、反動で強い繋がりを持とうと行動する。」


「昨日の日本中を震撼させた事件のことですか?」


「犯行に及んだ動機は分からないので、何とも言えないけど。」


「最近、こういった犯罪が多い気がするんですよね。」


「世界中、SNSによる複雑なネットワークが張り巡らされているけど、孤独感を抱えている人は増えていると思う。」


「社会から、見捨てられたと感じることって、繋がりを切断されたときですよね。学生の頃、部活でふざけていたら、顧問からやる気のない奴は帰れ!と言われたときの、見捨てられ感を思い出します。」


「顧問に怒られてがっかりして、帰宅したら、親にもう一度怒られて、次の日学校へいったら、担任に呼び出されて、頑張れと励まされる。暗い表情をしていたら、いつもキツイことしか言わない隣の席の女の子が優しくしてくれたり。」


「嫌なことがあっても、救ってくれる人たちが、実は命を支えてくれていたんだよね。」


「捨てる神あれば、拾う神」


「しかし、現代は命を救ってくれる神が減っている。」


「どうして?」


「分からないこと、不安なことがあっても、SNSで全て解決できる空気感があるだろ。くだらない話が隣の人とできない、硬直した人間関係が蔓延っている社会だからかな。」

「とんでもないこと想像する奴はいるかもしれないけど、大体、身近な人間とわちゃわちゃ話しているうちに、妄想で終わるんだよ。でも、その話ができる仲間や知り合いがいない。」


「人生うまくいかないことの方が多いですけど、身近な人たちと雑談していると、自分の妙なこだわりは薄れていくものです。」


「人は誰のものかも分からない命と付き合っているんだ。その付き合い方を間違えないように、命の鼓動を確かめることが大事なんじゃないかな。」


「孤独になると、ともいえますね。明日は、参議院選挙です。孤独感をもたせないような社会を、私たちとつくってくれる人を選びたい。」


「選挙に行かないことも、一つの権利だから。でも、この国の孤独を変えるのは、やっぱり身近な人間しかいないんだよね。身近な人間の命に働きかけるためにも、投票行為は大事に考えたい。」


「私はいつも投票する人が大体決まっています。無所属で、認知度が低く、投票数が少ない可能性が高い、選挙活動で孤独感を味わっている人に必ず投票しています。」


「そういう、投票もありだね。紙切れ一枚の話だけど、その一枚で救われる孤独もある。」


「みんなで何でも語り合って、孤独感のある人がいない、国にしていけるといいよね。少しくらい貧しくたって、繋がりさえあれば、命は輝くのだから。」





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