第94話 図工美術教育不要論①
「ダイラさん、今の図工美術の先生たちって、子どもの作品を褒めないのが常識って知っていました?」
「マジで?オレは、子どもの頃、図工美術では相当褒められた口だよ。」
「美大や藝大に通っていたような人や、アーティストで活躍している人たちは、そうでしょうね。」
「何で、褒めないの?」
「褒めるということは、上から目線であり、あたかも表現の正解をもっているのは教師のように感じられてしまうからなんです。」
「上から目線は嫌われるもんね。」
「最近の図工美術教育は数十年前とは大きく変化しています。写実的に描くことが、美術が得意か否かを決定付ける時代に図工美術教師をしていた人は、上手だねと褒めることができました。」
「しかし、現代の美術教育には造形あそびという、現代アートさながらの教育が入り込んできていますので、はっきり言って、評価がしにくいのです。」
「造形あそび?大学時代のサークルでやっていたよ。近所の子どもたちを集めて、手足に絵の具を塗りたくって模造紙の上を歩かせたり、ペットボトルのキャップを集めて自由に並べたり、ビニールテープを木々に絡ませたり、音響やダンスも取り入れて遊んだ記憶がある。」
「いいね~、凄いね、上手だね、が意味をなさない言葉なんです。どの口が言っているの?あなたに何が分かるの?あなたが正解なの?みたいに思われる。」
「ここはこうしたのかー、色塗ってるね。次はどうするの?ってな感じで、行為に言葉を添えるんだよね。サークルでは皆そうしてたよ。」
「多分、その頃の、ダイラさんたちがやっていた活動が文部科学省に採用され、図工美術教育の柱となっていったんだと思います。」
「中高の美術科は、専門性のある人たちが採用されてるけど、幼稚園や小学校では、専門外の先生が図工を教えることが多いよね。」
「そうなんです、旧来型の写実主義的な内容では、子どもたちの図工美術嫌いが大発生するから、現場の先生たちが苦労するんですよ。」
「そっくりに描ければ、気分もイイけど、描けない子にしてみれば、つまらない時間だものね。オレたちがやっていたサークルでは、参加していた子たち全員が図工好きになっていたよ。その後、ムサビに入学した子もいたんじゃないかなぁ。」
「造形あそびを導入したことで、メリットもあったのですが、その分デメリットも発生しているのです。」
「分かった!絵が描けない大人が増えているんでしょ!」
「そうなんです。地図が描けない、ちょっとした説明でスケッチが描けない、Tシャツのデザインを考える会議で、ホワイトボードに簡単にTシャツを描いてみてよと、新入社員に言ったら、見たこともないTシャツを描いていた。」
「図工美術を嫌う子どもが減った分、スケッチが描けない大人が増えた。」
「デジタルネイチャーの子どもたちが、いずれ字が書けなくなると言われている。同じように、みんな絵が描けなくなる。」
「公教育には、社会で使えない技術は不要である。という根深い考え方があります。」
「絵の描き方すら教えられない美術教師は、不要なんじゃないの?そう言われ始めているんでしょ。」
「数十年前に、美術の授業時数が削られました。地方では、美術教員免許をもった人が激減し、成り手もいません。美術教育に未来を感じている若者が減っています。」
「いいアイデアがあるよ。地元のアーティストが日替わりで、美術の授業をサポートすればいいじゃん。面白くなりそうだよ。」
「そうは言っても、毎日、学校に拘束されるのは、キツイと思いますよ。アーティストさんは、自由なタイプの方が多いので。」
「拘束されるのは、ちょっとね~・・。」
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