第198話 ラーメンの街に日が暮れて

「せんぱ~い。久しぶりにラーメン食いに行きませんか?」


「どこかお勧めのお店でもある?」


「新横浜のラーメン博物館はどうっすか。」


「あそこは全国の名店が揃っているからね。熊本こむらさきの豚骨はいいなぁ。」


「僕は山形県龍上海のからみそがお勧めっす!」


「それにしても、1994年あのラー博アミューズメントパークができたときは驚いたよ。」


「設定が昭和33年の街ですからね。ダイラせんぱいが生まれる10年前の世界観ですが、あんな感じでした?」


「ラー博の街は古さを過剰演出しているけど、記憶の中にある昭和を凝縮していて、懐かしい気持ちになるから不思議だよ。」


「グラフィックデザイナーの相羽高徳さんという人がラーメン→チャルメラ→夕焼けという子どもの頃の懐かしい情景から作った世界観なんですよね。」


「ラーメンをエンターテイメントに仕立て、ラーメンを食べる街まで演出しちゃうなんてまさしくラーメン界のディズニーだね。」


「せんぱい、この相羽さんは真のディズニー狂らしいですよ。街に並ぶ家々の2階窓が実際よりも小さく作られているのは、ディズニーランドの建築物遠近法を真似ているらしいです。」


「模倣からの創造だね。」


「せんぱい、相羽さんは東京藝大を目指していた予備校時代に池田満寿夫の『模倣と創造』を熟読し、創造の原点は模倣からと学んだようです。」


「クワヤマダくんは何かと詳しいね。もしかして、相羽さんは宮崎駿の千と千尋の神隠しからもインスパイヤされているよね。」


「まさしく!大好きなものをドボドボ頭の中に入れてシェイクすることでアイデアが降ってくるらしいですよ。千と千尋の神隠しは200回以上観たらしいですよ。」


「やっぱり、天才はやることが異常だよね。ただの模倣で終わるか創造物に転化するかは才能と変態性が関わっている気がする。」


「せんぱいの天才的な作品も変態的な映画好きから来てますよ。せんぱいの頭脳には一体何千本のストックがあるのですか。それは置いておいて、昨日のタローマンヒストリア観ましたか?」


「あぁ観たよ。あれも、架空の昭和時代で押し切っていたよね。本当に僕たちはTAROMANで育ったかのように記憶が書き換えられた感があった。」


「過去は変えられないと巷では言われていますが、ラー博にしろTAROMANにしろ、観て体感する僕たちの中で過去がいじくられていますよね。ということは、僕たちには過去を変えられる能力があるってことですか?」


「過去も未来も人間の頭が作り出しているわけだから如何様にもなるんじゃないの。過去にも未来にも行けないんだから、全てが物語になる。」


「養老孟子の脳化社会ですか。ユヴァル・ノア・ハラリもホモサピエンスは物語を生み出す天才だから発展したと言っていました。今ここにいる僕たちだって見方や解釈を変えただけでどうにでも変化する存在ってことですね。」


「クワヤマダくん、麺堂臭い話はここまでにして、お腹が空いたから早くラー博行こうよ。」

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