第119話 怪談 ヤヨイの部屋②

「私がまだ幼かったころ、村で不思議な事件が起きたの。」


「私の実家は種苗業しゅびょうぎょうを営む裕福な家だった。田畑もたくさんあり、使用人も何人かいたわ。」


「お嬢様だったんですね。」


「何不自由なく育つという言葉は、私のことよ。」


「ある日、実家の近くの池で、変死体が上がったの。村中の人々が、その池に集まり、大騒ぎになったの。」


「今では、警察がすぐに来てブルーシートをかけて、一般の人には見せないようにしますけど、当時は、遺体を探すのも引き上げて処置するのも、村の人がやったんですか。」


「村中の男どもが駆り出されて、行方不明者を探し、池に藁草履が浮いていたことに気が付いた輩が、長い竹で池内を突っついていたら、浮いてきたみたい。」


「ヤヨイさんは、その変死体を見たのですか?」


「私は、部屋で絵を描いていたの。しばらくして、家に警察が来たわよ。おたくのお嬢さんの絵を見せてくれと。」


「なぜ?」


「その浮き上がってきた変死体が奇妙なことに、体中に無数の穴のような傷があったらしいわ。」


「もしかして・・。」


「私が描いていたものは、ある男の全身に無数の点々がある絵だったのよ。」


「警察は目をひん剥いて、私の描いた他の絵も興味深そうに見ていたわ。その事件との関連性を疑った、私の描いている絵のことを知っている村の誰かが、警察に通報したみたい。」


「でも、ヤヨイさんは当時まだ子どもですよね。」


「そう、さすがに、私の力ではそんなことができないと警察も判断して、去っていったわ。私は、自分の絵を見られて不快な気分になったけど、それ以降、村人から奇異な目で見られるようになったの。」


「事件とは関係ないと分かったのに?」


「人間とはそんな生き物。私は、穴あけ殺人者として、学校でも鼻たれ小僧どもから揶揄されたり、女の子グループからいじめられたりしたわ。」


「私の描いている点々は穴ではないの。水玉なのよ。そこをいくら話しても、教養の欠片も無い人々には理解できなかった。」


「それから、近所で、無数の穴の空いた遺体が見つかるという事件がしばらく続いたのよ。しかも、私をいじめた子どもの関係者が多かったわ。」


「私は、思ったわ。私のように水玉が見えるタイプもいれば、穴が見えるタイプもいらっしゃるんじゃないかしら。そんな似たタイプの人が近くにいることを感じたわ・・。それから村人たちの精神は病み始めたの。初めに遺体が浮いた池のほとりでは怪奇現象が起き始めたわ。」


「怪奇現象・・・。人魂?」


「全身傷だらけの人間が、更に自分の身体にアイスピックを刺しながら、傷やら穴やらを増やす亡霊を見たという証言が後を絶たない。」


「かなり具体的な証言ですね。」


「私はその亡霊は見たことがないわ。似たようなことをしていると今でも誤解されるけど、これは水玉なのよ。あれから、100年近く経つのだから、そろそろ理解してほしいわよ。」



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