二ホンダイラ

第51話 みんな同じでみんないい

あなたの作風は誰々さんと似ていると言われると、とするのはなぜだろう。


どこかの作家や職人の弟子なら、似ていて当然。


だって師事しているんだから。師匠の技や考え方に教えをこうなら、似せてナンボの世界。


ただ、実際には完全に似せることは不可能であり、似せたいと思う人ほど、似せるのがヘタだったり、似せているつもりが、全然違う形態になっていたりする。


いつしか、弟子だったのに、妙な個性が出てしまい、破門になったり、独立したりするはめになるという場合も結構ある。


ムサビの彫刻科では、どうだろうか。


アトリエで話す人たちの話をこっそり聞いてみよう。

「今度の課題、何作る?」


「はっきり言って、もうネタ切れ。私は個性の欠片もないことが最近分かった。」


「そうだよな。予備校の時は、石膏像か、ヌードデッサンをシコシコ描いていればよかったから、意外と楽だったよ。たまに、自由制作みたいなときは、おれは作家だ!みたいな雰囲気出して、奇妙なもの作っていたけど、それ以降続かなかった。」


「ムサビの先生たちの作風を真似てみるとか。!突っ込まれたら、インスパイヤされ、オマージュしました、とか何とか言えばセーフじゃない?」


「この言葉は、便利だけど、日本ではあまり通じない気がする。基本的に、日本の義務教育は、だろ。そのくせ、ムサビにきた途端に個性を出せって言われる。元々、自分の個性なんか気にしたことがないんだから、難しいんだよね。」


「例えば、ダイラさんの名作、ドームのないプラネタリウムを参考に、皆で同じものを作ってみましょう!って言う課題が出たら面白そうだよね。」


「いいかもね。でも、知ってる?飛騨高山鍾乳洞の前に、大昔に石で彫られた、その形態がわんさか置いてあるんだ。今もあるのかなぁ。きっと、模倣が苦手な俺たちはいびつな〇〇〇を作り、になってしまう気がする。それが、三十数体、立ち並ぶ様子は、微妙かな。ダイラさん、怒るかも。」


「その中に男神輿を混ぜちゃうのも、いいかも。無数の穴が空いたいびつなバナナが立ち並ぶ様子は、圧巻だわ。」


「おまえの発想は、ぶっ飛んでるな。」


「その中央に、われらダイラさんの、ドームのないプラネタリウムを設置する。幻想的でいいかも!」


「反個性主義アートと題して、そういう作品つくってみる?」


「面白くなりそうだね。これは、新しいアートムーブメントが起こせそうだわ!」


「そう言えば、ジャコメッティの作品にチリメンジャコをくっつけた作家がいたよね。」


「鉄人コウジさんだろ、あれは傑作だね。ジャコメッティを模した形態にチリメンジャコをくっつけたんだよね。」


「じゃぁ、私たちは、ドームのないプラネタリウムに〇〇ドームを被せたものを、たくさん作って、本家本元の周りを埋め尽くすみたいな。」


「キテルネ!やっぱ、違いを出すことや新しい作風を考えるより、いかに似せていくか考えたほうが、発想は広がるね。」


「これは、新しい思考方法かもね。何だか、考えることが楽しくなってきた。」


「次の課題は、〇〇ドームのついたプラネタリウムということで。」








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