第50話 ペラペラなゴール
「ナガサワさんは、いつまで制作するんですか?」
「クワヤマダくん、私は石を彫る仕事が多いから、動けなくなる瞬間までやっているんじゃない。」
「動けなくても、念力とかで彫ってそう!」
「全然面白くないね。クワヤマダくんは、最後の作品は、どんなイメージ?」
「僕は、若い頃に、作品置き場がなく、泣く泣く天に召した作品群を再生したいと思うときがある。やっぱり、ギラギラしていたときの作品って、思い入れが半端ないんだ。今でも、たまに作品がクラッシュされる瞬間の切なさが蘇るときがあるんだ。」
「私は、今までの作品は全て破壊してほしいと思うときがある。」
「性格の不一致ですね。」
「でも、ナガサワさんの作品は世界各地にあるから、破壊は無理ですよね。特に石が一番耐久性があるし、数千年後の人だか、何だかが、妙なモノとして、崇めていたり、生活の一部として使っているかもしれないよ。」
「想像すると、面白いね。作家の想像を超えた存在として、後世の誰かが価値つけるなんてロマンあるわ!」
「ダイラさんは、特殊照明作家として、かなり忙しいようですが、作家の終わりかたについてはどう思いますか。」
「う~ん。終わらないね。オレは。」
「終わらないんですか?」
「自分がいる世界は、自分がいるから存在しているんだ。自分がいなければ、世界は存在しない。ということは、終わりはないだろ。終わりを知る自分がいないんだから。」
「SF映画の見過ぎじゃないですか。でも、終わらない、ゴールを決めないのが、アーティストの生き方かもしれないっすね。だって、どこかに就職して、定年を迎えることもないから。80歳からアートを始めて、100歳頃、中堅ですっていう人も結構これからいそうだしなぁ。終わりがない?理解しない?というのも納得できる。」
「草間彌生さんなんて、年を重ねる程、パワフルな作風になっている。まだまだ、やりたいことが沢山あるって言っているもんね。あれだけ作ってまだあるんかい!って突っ込みたくなるけど、本音だろうなぁ。」
「アニメーターで映画監督の宮崎駿さんも、何回、引退宣言したか分からないもんね。でも、体力や知力の衰えが始まると、一瞬不安になる。このままではまずいかもって。」
「でも、不安になる内は、まだ若いんだよ。体力のある頃が思い出せているから。年を重ねると、若い頃の勢いを思い出せなくなる。要は老人力。忘れたことも忘れた頃に、潜在能力が発揮されて、次元の違う領域に入ってくるのかも。」
「ところで、このダイラ物語はいつまで、続くんだろうね。そろそろネタ切れな気がするよ。だって、この作者、ダイラさんのことほとんど知らないくせに、書いているんだろ。」
「大学時代の数年間と、ダイラさんの個展で20年ぶりに再会して、数分間世間話をしただけらしいよ。」
「この作者は、大学時代はかなりの無口で、周囲の連中は声も聞いたことが無いっていう話だよ。私も、実はあまりよく覚えていないんだ。存在感ない感じ?」
「確かに、本当は、僕たちがイメージしているあいつじゃないのかもしれない。じゃぁ、こいつは一体誰なんだ?」
「まぁまぁ、いいじゃないか。放っておけば、いつかフェードアウトするんだから。そんなことより、時間や関係性を超えて、不思議な話を展開しているところに、元彫刻科生のミステリアスな性格が表れているんじゃないの。ゴールとか、誰とかよりは、そこに作品があるっていう事実だけで、見て行けばいいんじゃない。文章も彫刻的な捉えで書いているように思えるんだ。」
「ダイラさんは、優しいなぁ。懐が広いっすね。これだけ、適当なことペラペラと書き続ける、謎の人間を許せるんですね。」
「ペラペラと言えば、ムサビの彫刻から、ペラペラの彫刻というタイトルの分厚い本が出版されましたよね。」
「あの分厚さと頑丈さは、アトリエで、皮手袋をしながらも読めっていう、メタファーだぜ。」
「また、メタファー?」
「きっと、執筆した人たちは後悔していると思うよ。後ろメタファーだな。」
「いいんじゃない。何をつくろうが、書こうが、自由な彫刻科だからね。」
「そこに、魅力があるんですもんね。多様な世界観はネバーエンドですね~。」
「ちょっと今日は、話が長すぎるから、終わりにした方がいいね。」
「よし、これから、ペラペラの彫刻とやらでも、読んでみるか!」
「重量もあるから、筋トレになるかもよ。皮手袋して読んでね。」
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