第52話 彫刻科消滅説

「民衆がとくる彫刻をつくれる人間を世の中に輩出し続けないと、彫刻科の存在意義が揺らぐ。」


「太平洋戦後、現代美術(コンテンポラリーアート)が主流となった時代背景のもと、彫刻という限られた分野を切り出し高等教育システムに繰り込むことの有意性はあるのか。」


「料理で言うと、料理大学調みたいなもの。」


「縄文料理なんか、一生に一度食うか否か程度、彫刻をつくり真剣に鑑賞するのは、人口の99.99%は中学校の美術の授業で数時間程度。」


「確率論や社会的なインパクトで考えると、縄文料理と彫刻はそれ程違わない。」


「人々が、彫刻を欲しない社会が目の前に来ている中、人体塑像や石膏デッサンに数百時間かけることの意味はどこにあるのですか。」


「縄文焼きのどんぐりの煮込み方に、人生の大切な時間を費やす時間は必要なんですか。」

「せんぱ~い。こんな議論が、彫刻科研究室で巻き起こっていたと噂で聞いていますよ。」


「まぁ、かなり尾ひれはひれと、彫刻科特有のブラックジョークが含まれているけどね。でも、最近は、美大予備校で彫刻科コースを無くす動きも出ているみたいだよ。」


「予備校は僕の青春時代ですよ!無くなるなんて切なすぎる!」


「だよね。彫刻科に入るために、数年間浪人している人なんかにいるからね。クワヤマダくんは何年かかったんだっけ?」


「まぁいいじゃないですか。年数なんか。アートに年数は関係ないっすよ!子どもが超売れっ子アーティストになったり、巨匠と言われても、世の中に認知されず終わっていく人もいる世界。学生時代のことなんて、関係ないっすよ!」


「まぁそうだね。でも、オレたちみたいに、彫刻に情熱をかける若者が激減している現実は直視しないと、本当に彫刻科は無くなると思うよ。」


「そもそも、彫刻というより、現代美術の中のという解釈で入学してくる人が多い気がします。純粋彫刻を学びたい人は、地域のカルチャーセンターへどうぞって感じも・・。」


「彫刻科っていう名称も古いのかもしれないね。」


「地方では、少子化に伴い、高校のがかなりの勢いで進んでいるみたいですよ。」


「地元に久しぶりに帰ったら、元ライバル高校が、いつの間にか同じ高校になっていたとか。」


「彫刻科はどこの科に吸収されると思いますか?」


「そうだなぁ。油絵、日本画、彫刻はまとまるんじゃない。科。」


「立ち位置がしているからですか!?」


「だって、顧客目当てに制作しないという方向性は保ちつつ、純粋さも残すんだったら、ファインアート的なは名称として残したいじゃん。ふわっと、美大を選ぶ人の方が多い気がするんだ。真面目に考えたら、美大へは行かないでしょ。でも、意外とフワッとしている人の方が、になったりする。期待を込めてだよ。」


「生活が!将来性が!とか真剣に考えたら、どんぐりを煮込む行為はしませんよね。」


「人間の文化的な生活を維持するためには、ふわっとしたアートは必要だと思うよ。」


「武蔵野美術大学造形学部フワット学科立体コース」


「さすが、天才ダイラさん!不思議とはまっているし、世間の注目も浴びそうな名称。さぁ、これから、真剣に討論しましょうか。」



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