第186話 同情するなら破壊をくれ

「ダイラさん、今流行のヴァンダリズム(破壊行為主義)がいよいよ日本にも輸入されましたよ。」


「最近ではゴッホのひまわりが標的にされていたけど、あんな行為をしてどうするのかね。日本ではどんな流行り方をしているの?」


「同時多発的に様々な美術館で行われているようです。」


「白髪一雄の作品にクリームが塗られていました。」


「それ、よく気付いたね。気付いた人を褒めた方がいいよ。」


「戸谷茂雄の森シリーズ双影景の中横に、ジャコメッティの人体群が並んでいました。」


「それは学芸員がバグっているな。」


「地方の小さな美術館では、ひまわりのレプリカの前にアンディウォーホルのキャンベルのスープ缶を模したトマトのスープ缶が置かれていたとか。」


「経営が苦しい美術館の苦肉の策だね。同情するならってところだろう。」


「名画は厚いガラスに保護されているので傷がつくことがなく美術館は不名誉な話題性を振りまけるし、自然保護団体も主張を世界に広められることから、ウィンウィン(win-win)戦略として広まっているようです。」


「ウィンウィンは言い過ぎだね。傷ついている人もいるから。」


「でも、保護されるような作品は歴史的価値のあるものだから、巷には意外と少ない。クワクボさんという現代美術家は修学旅行中の中学生に作品を破壊されていたが、大体が泣き寝入りです。」


「クワクボさんは若気の至りとして寛大にスルーした。」


「クワクボさんの作品の隣で、篠原 有司男や白髪一雄がギャンギャンやっていたら、話は別だったですかね。」


「中学生は直感で影響を受けるから。蔡 国強 (さい・こっきょう)が火薬を使っていたら、その中学生の行為は誰も気付かなかったかもしれない。」


「クワクボさんの作品が破壊を呼び寄せる作品だったと考えると、ヴァンダリズム(破壊行為主義)との関連性を研究する必要があるかもしれないですね。」


「人知を超えた無意識の知能を呼び起こさせる作品なのかな。」


「大竹伸朗さんの作品はぶっ壊れているように見えるけど、あれを更に破壊しようとは思わない。やったら強面な作者から怒られそうな気がする。この世には破壊心を増長させるナイーブな作品が存在するのかもしれないです。」


「でも、どうせやるなら、自分が買ったばかりのiPhone 14をぶっ壊せばいいのにね。人のものに手を出すのはルールとしてやはり認めてはいけないと思うよ。」


「このダイラ物語もある意味破壊行為的な内容ですけどね。」


「オマージュされている特殊照明作家市川平さんにも、ヴァンダリズムを呼び寄せる魔力があるってことだね。やはり更なる研究を深める必要がありそうだ。」



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