第98話 不統一なアートのゆらぎ

「ダイラ先生!ネット通販で中古の本を探していたら、とんでもないもの見つけました。」


「また、妙な本を探していたんでしょ。」


「ナントカ教の経典みたいなものが、4,300,000円でした。」


「え?4,300円の間違えじゃなくて?」


「古本で4千円だって高い方です。何回も0を数えましたよ。」


「そのナントカ教って、もしかして、壺とか高額で売っちゃうやつ?」


「当時は、高級外車一台と同じ値段だったらしいですが、ネット通販では、その壺は叩き売り状態でした。僕のポケットマネーでもギリ買える金額です。」


「数百円?数千円?」


「子どもの頃、自宅に壺を売りに来た人がいました。あなたの息子さんには悪霊が憑りついているから、この壺に入れた水を飲みなさいと言われ、小さな壺を売りつけられそうになりました。買うか迷っていた母親に、そんな壺で水は飲まないからと強く訴えて、買わずに済んだけど・・。」


「それはよくある手口だね。君みたいに、心配事が多そうな子どもをもった親は、一瞬冷静な判断ができなくなる。そこに触手を伸ばすんだ。」

「あと数品しか残っていない。今なら、低価格で購入できるキャンペーン期間です。なんて言われたら、焦って買いそうになる。あと、集団で商品の値段や価値を高騰させていく、オークション形式で、買わせる手法もある。以前、その手法で布団を売っていた集団もいたよね。」


「全くもって、アート界とやっていることがそんなに違わないと思いませんか?」


「大昔の巨匠が描いた、落書きに、数十億払っちゃうんだから。」


「自分以外全員、サクラだったらどうします?ピカソのスケッチと言われ、どこの誰が描いたか分からないようなスケッチを競売する状況があったら・・。高額で買えば買う程、富裕層のステイタスは向上するのかもしれないけど、実はただの紙切れなんてことも。」


「よくよく考えてみたら、オークションで高騰している作品群全てに言えることじゃないかな。皆が欲しいと思っているものに、異常な金額がつけられる。物として高品質であるという価値や、作家の労働時間を鑑みた適正な価格なら、納得できるけど、それ以外の意味の分からない高騰ぶりは、〇〇商法と変わらないとも言える。」


「NFTで高額で購入したアートが、一瞬で価値が大暴落した話はよく聞きます。う~ん。アートで一発当てたいと思っていたこともあるけど、自分の作品に数十億とか価値をつけられてしまったら、人間的に腐ってしまいそうだわ。」


「君のあの作品のこと?実家に立っているカバみたいなオブジェ?」


「どこかの富豪が狙っている気がするんです。数千億円で欲しいと言われたらどうしよう。僕は数兆円積まれたって手放さないですけどね!」


「それは無いと思うから心配しなくていいよ。それより、撤去費用を貯めておくことを勧めるよ。作った人の責任は撤去まで続くからね。」


「ムサビにいた頃、よく言われました。やりっぱなし、作りっ放しにする奴は作家じゃない!捨てるとこまで責任を持てと・・。」


「バンクシーのシュレッダー事件みたいに。」


「お金で心身が疲弊するより、自分の可愛い作品に囲まれていた方が幸せですもんね。売ることを忘れて作りまくる、お金に無頓着なアーティストが多い理由が何となく分かる気がします。」


「アートを生業にしている人もいるし、そうでない人もいるのが、この世界の魅力だ。軸足を見失わないようにしたいものだよね。」





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る