第65話 梱包プレイ

「現代アート史の講義で、1960年代にブームになった梱包芸術について評論を発表した学生がいたんだ。」


「クリスト&ジャンヌ=クロード、赤瀬川原平の作品は有名だよね。」


「その学生の着眼点は、包む行為というより、縛り方にあった。」


「縛り方?」


「クリストの縛り方は雑さがあるが故に、ポップで日常的なんだって。」


「クリストたちは日常品から、ビルや島などをすっぽり梱包していたけど、誰でもできそうな縛り方をしていたため、一般化され世界に広がったんだって。」


「対する、赤瀬川原平の梱包は、かなり律儀な縛り方だったらしい。」


「そう言えば、夜の世界でブームになった亀甲縛りを取り入れていると聞いたことがある。」


「そうなんだよ。亀甲縛りは日本古来からある伝統的な縛り方で、米俵や囚人を縛るために生み出されたものなんだ。現代は、夜の街で、どこかの叔父様たちが縛ったり縛られたり・・。」


「日本でも梱包芸術を流行らせようとしたけど、亀甲縛りへの道徳的な抵抗感や縛り方の特殊性(難しさ)により、赤瀬川さんで打ち止めになった。」


「赤瀬川さんも縛るのが面倒になり、最期はカニ缶の外側ラベルを缶の内側に張り付けた、詰をつくって、梱包ブームに終止符を打った。」


「あの作品は、クリストも驚いただろうね。地球全体を梱包しようと企んでいた、クリストは、何枚の梱包シートとロープがあればいいのか、計算している最中に、カニ缶で宇宙を梱包する日本人が現れたんだからさ。」


「所説では、クリストは宇宙の缶に理解を示さなかったとか。クリストの中に雑でも縛るこだわりがあったのかもしれないね。そう言う意味で、こだわりから自由になった瞬間に世界は広がる。赤瀬川原平の勝利かな。」


「アートに勝負を持ち込むのはだよ。」


「評論を発表した学生の話にはまだ続きがあって、梱包ブームがムサビにもあったらしい。」


「ダイラさんのバオバブプランテーションと、石田徹也氏の電車のドアから荷物と化したサラリーマンが現れる作品。」


「ダイラさんの作品は、鉄板が規則的に細い糸で締めこまれているように見えるけど、縛られている訳じゃないよね。でも、縛られていると解釈すると、梱包としてのアナロジーが見え隠れして、ダイラさんのもう一つの魅力が見えてくるかも!」


「確かにあの鉄板の溶接の仕方には、特徴がある。」


「石田さんの縛られたサラリーマンは、それ程、は縛られていないところが、ポイントだね。」


「社会に縛られているようで、脱走可能な余裕が残されている。」


「ダイラさんの倉庫には、亀甲縛りをした、未発表のバオバブが隠されているかもしれない!」


「こっそり、探しに行ってみようよ!」


「そう言えば、彫刻科の作品倉庫に行くと、ブルーシートで雑に縛られた作品が沢山あるよね。」


「よく見ると、クリスト派か、赤瀬川派かが分かるかも~」












  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る