ダ・ダイラ

第111話 奇獣 みつめあう愛

「せんぱ~い、第6話では、TAROMANが自分の顔のことを貶されて怒っていましたね!」


「そりゃそうだろ、美ってものは見方次第なんだよとは言いつつ、自分のことを言われれば、さすがのTAROMANだって、我慢できないよ。でも、あの顔は特徴的だよね。」


「そもそもTAROMANの顔って、あの太陽の塔のボディに彫刻されているものですよね。」


「クワヤマダくん、あの顔は、愛知県の犬山市にある日本モンキーパークという、大阪万博で太陽の塔が制作される1年前にプロトモデルとして作られた、若い太陽の塔の顔なんだよ。」


「ダイラくん!」


「わ!せんぱいのTシャツにプリントされたTAROさんがしゃべり始めた!」


「日本人はね、海外に行くと、自分の顔の平たさに気付くんだよ。平たい顔族だ。」


「確かに、彫の深い人たちに比べると凹凸は少なめですよね。」


「日本にいたときは、やれ、あの人はソース顔だ、この人は別嬪べっぴんだなんていうことを、狭い島国でこちょこちょと言い合っていたが、外国人から見れば、日本人は全員同じ顔に見えるらしい。留学していた日本人が何人かいたが、名前と顔の違いを覚えてもらうには、かなりの時間を有したぞ。」


「TAROさんの同居人というか、ガールフレンドというか、養女の、敏子さんが言っていましたけど、留学中はTAROさんは生気を失ったような平たい顔で日々過ごされていたのですか?」


「前にも言ったけど、強烈な個性のあるアーティストばかりだろ、日本人として、顔も覚えてもらえない、この無個性な自分にゲンナリしていたんだよ。日本にいたときは、岡本一平&かの子の天才児!と周りから奇異な目で見られて嫌だったけど、留学したら、フツーの日本人扱いだ。」


「やっぱり、根が個性的な人は、個性的な集団の中でも異彩を放ちたがるのですね。」


「生命をバカにしてはいけない、太陽の塔の内部に作った生命の樹は、個性の集合体だ。人間も個々、個性を輝かせて埋没してはいけないんだよ。」


「せんぱ~い、難しいですね、個性的であろうと努力しても、見方を変えたら、無個性になる。生きている間にどこの誰に自分の個性を認めてもらうことが幸せなのか、判断がつきませんね。」


「クワヤマダくん、その通りだよ、人間が作っている作品なんかも、未来人や宇宙人が見たらどう思うだろうかね。同じような価値観の中で生きる人類には、違いを楽しめるけど、見方が全く違う異星人にとっては、違いすら気付いてもらえない可能性がある。」


「せんぱい!未知との遭遇って奴ですね。」


「何だか分からないけど、お互いを見つめ合い、何かしらの理解やコミュニケーションをとろうとする行為。」


「TAROさん、そこにはあるのは、愛しかないですね。」


「私は、開き直ったぞ!平たい顔で太陽と見つめ合ったんだ。そしたら、そのままでいいんだ、TAROのままで闘えと言葉が降ってきた。目が潰れそうになったが・・。」


「それで、あのTAROMANの黄金の平たい顔が生まれたのですね。」


「眉間や口もとがひねているだろ、あれは一生懸命凹凸を作ろうとしているんだ。」


「TAROさん、西洋人にかぶれているじゃないですか!」


「少しくらいかぶれたっていいだろ!」


「TAROMANの顔はTAROさんが、開き直ったときの貴重な顔だったのですね。」


「そう、だから、あの顔を貶されると、ムカつくんだよね~。」







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