第133話 忘却を促す創造性(宿題攻略法)

「せんぱ~い、夏休みもそろそろ終盤ですね。」


「クワヤマダくんは、夏休みの宿題は終わっているかな。」


「いや~、この灼熱地獄の中では、宿題をやる気力が出てきません。」


「夏休みの宿題の極意を教えてあげよう。」


「何ですか?」


「クワヤマダくんは、夏休みに入って直ぐに片付けるタイプ?計画的に進めるタイプ?最終日に猛烈にやるタイプ?やらずにしらばっくれるタイプ?」


「はい、僕はどっちかと言うと、計画的にやるタイプです。途中、計画通り進まなくなり、最終日焦りますけど。」


「今挙げたタイプは、世間一般に言う、普通のタイプである。」


「このタイプ以外にあるのですか?」


「これでは、アーティストにはなれない。」


「ムム!じゃあ、ダイラさんはどういうタイプなんですか。」


「宿題はすでに終わっているが、まだ人には見せられる密度に達していないので、あと一週間揉ませてくれと教師に交渉するタイプです。」


「それってズルくないですか?教師は宿題やってないなコイツとバレていますよ。」


「ズルくはない。ここに、人生の分かれ道があるのだ。」


「確かに、宿題を何とか終わらせるタイプは、要領はいいけど、内容が淡泊だったり、一般的な密度で、可もなく不可もなくみたいな感じが多い気がする。」


「日本は形式だけ揃えれば安心する傾向がある。」


「大概、夏休みが終わる前夜、宿題表を見渡すと間に合わないことに気が付いて、焦って泣く子どももいますよね。」


「焦って泣く子は、世間体を気にする普通のタイプだ。徹夜してでも、ある程度の形にするはず。それ程、学校の中には無言の圧力(見えないパワハラ)が存在する。しかし、間に合わないと知ったら、淡々と次の手を考えるのがアーティストだ。」


「それって固定概念を崩す、創造性に関係するってことですか?」


「人間本気で困ったときに創造性が発揮される。」


「どこかの原始人が、森で起きた火事が木と木が摩擦して起きたことを見て、自分で火が起こせるぜ!と仲間に豪語し、じゃぁ火が起こせなかったら、皆でお前を殺すからなと凄まれ、命がけで乾いた小枝と小枝をこすり合わせたらチャッカリ火がついたみたいな。」


「それが創造性なのか分からないが、命がけで一か八かやってみることが大事なのだ。」


「命をかけて、自分の中にをもて!に飛び込め!と岡本太郎も言っていましたね。」


「それは、どんな場面でも言えることだよ。人が考えない、やらないことの中に、何か途轍もない大きな創造性が眠っているかもしれない。」


「で、宿題を一週間延ばして、普通の密度だった場合どうするのですか?」


「いい質問だね。そこで、本領が発揮される。実は、宿題以外のことに情熱をかけていたと言いながら、休み中に作ったプラモデルやイラスト漫画を描いたノート、友だちと撮影した8ミリ映画を教師に見せるのだ。教師は呆れると同時に、君の個性を伸ばすいい休みだったと見逃してくれること間違いない。」


「それは、ダイラさんだから成立する裏技ですよね。普通は何もせずぼ~としていて、夏休みが終わるタイプが多いですから。」


「もう一つ創造的裏技がある。田舎から来た親戚の子どもが、僕の宿題を間違えて持ち帰ってしまったんです。郵送してもらうにもう少し時間がかかりますと言えばよろしい。または、海外転勤した父親が書類と一緒に持っていった。庭でゴミを燃やしていた爺ちゃんが、間違えて燃やしたなど、いくらでもあるぞ。」


「不可抗力で失ったものについては、災害の多い日本では、大目に見る習慣があるからですか。2学期に入って、教師も日々の授業に忙殺され、ごちゃごちゃしているうちに面倒くさくなり、失われた宿題のことは忘れる。過去を見るより、先を見よとポジティブ助言が飛び出すこともありそうですよね。」


「人の忘却を促す行為も、創造性であるのだ。」








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